ちびっ子ギルとヴィンスとエリー/ナイトレイ邸





「あれ?エリオット?」


真夜中、ヴィンスがお手洗いに行きたいから付いてきてほしい、と扉を叩く音で目が覚めた。その帰り道、廊下を歩いている途中、見慣れた義弟の後ろ姿を見つけ声を掛けた。


「ぎ、ギルバート…?」


びくりと身体を揺らしてぎくしゃくとした動きで振り返った義弟は、睨んでいるのにどこかホッとしたような、なんとも形容し難い複雑な表情をしていた。暗い廊下で、明かりも持たずにどうしたのだろうか。


「どうしたの?怖い夢でも見たの?」

「そっそんなもの見るわけないだろうッ!」


ギルバートの問いに、噛みつくように怒鳴ったエリオット。それでもしっかりとぬいぐるみを握った右手は隠せなかったわけで。ギルバートはにこりと義弟に笑いかけ、彼の右手に自分のそれを重ねた。びくりと肩を揺らす義弟の元気な前髪がぴょこりと跳ねる。


『エリオットくん、いっしょに寝ませんか?』


小さな右手からそっとぬいぐるみを持ち上げ、自分の顔の前で操る。明らかな子供扱いにエリオットは頬を上気させて義兄を睨み付けた。鋭い視線を向けられたギルバートは苦笑いを浮かべる。


「だッ誰がおまえらとなんか寝るか!!オレはひとりで寝れんだからなッ」

「ホントに平気?」

「平気に決まってんだろッ!!」

「いいじゃんギル、本人が大丈夫だって言ってるんだから…。ベッドに行こう…僕もう眠いよ」

「う、うん…」


ふあっ…とあくびを零したのち眠たげな瞳で実弟に見つめられ、歯切れの悪い返事をする。ヴィンセントに手を引かれるまま、ギルバートはエリオットの横を通り過ぎた。


「じゃあ…エリオット、おやす…」

「どっどうしても一緒に寝たいって言うんだったら、考えてやらないこともないぞッ!」


就寝の挨拶をしようとしたギルバートの言葉を、エリオットが勢い良く遮った。振り返った義兄は弟に向かって優しく微笑む。犬歯をむき出してこちらを威嚇する彼に、手を伸ばした。


「うん。どうしてもエリオットと一緒がいいな」

「フンッしょうがねえなッ!おまえがそこまで言うなら寝てやるよ!」


分かりやすく強がっているけど、しっかりと繋がれた手のひら。そんなふたりを眺めていたヴィンセントは、反対側からひょっこりと顔を出し不機嫌そうにエリオットを見やった。


「エリオットは意地っ張りだね。ギルが優しいから寝てくれるんじゃないか」

「うっウルサいぞヴィンセント!!」

「まあまあっケンカしないで!仲良く寝ようよ、ね?」


弟達が両脇で言い合いを始め、間に挟まれたギルバートはまた苦笑い。でもこれだけ元気に騒いだのならば、きっとぐっすり眠れるだろう。兄はホッと胸をなで下ろし、いつの間にか目の前に現れていた自室のドアノブに手を掛けたのだった。



おやすみナイトレイ!



翌朝、エリオットとヴィンセントがいないと女中達が騒ぎ出すのはまた別のお話。


END



エリーだけは、ふたりと隔てなく接してたら良いなって思います
2011/5/16 沫金
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