ラトウィッジ校/エイダとエリオット




私のお兄ちゃんは、いつでも私のヒーローでした。

私が困った時や不安な時は、いつだって手を繋いでくれました。お稽古がいやな日はこっそりお外に連れ出してくれたし、苦手なことが上手に出来た時には優しく笑って褒めてくれました。そんなお兄ちゃんと一緒にいられることがとっても嬉しかったの。そんなお兄ちゃんのことが、エイダはとっても大好きだったのです。



「だから、良かったら今週末にディナーだけでもご一緒しましょうよ!」

「あのっ本当にその日は予定が入ってまして…」


学年が上がって、最近急に増えた食事のお誘い。みなさんのお気持ちはとても嬉しいのですが、週末は課題に取り組んだり趣味に没頭したりと意外と多忙でして…


「本当に そのっ…ごめんなさいッ!!」

「そんなつれなくしないでよ…俺さぁ、君と宜しくやらないと叔父にどやされちゃうんだよね。だから、さ」


グイッと手を掴まれ、縮まった距離。いきなり雰囲気の変わった目の前の彼に驚いて身体が思うように動かなくなってしまいました。お兄ちゃんが手を繋いでくれた時はあんなにも心強かったのに、この人は全然違う…怖い!


「きゃっ!?ちょっ止めてくださいッ…」


どうしよう!!怖いです!!誰か助けて…叔父様、ヴィンセント様…お兄ちゃん!!


「走れ!エイダ=ベザリウスッ!!」

「…えっ??」


掴まれていた方と反対側の手を包まれ、急に腕を引っ張られました。ガクンと相手の手が外れそのまま身体は引かれた方向へ付いていきます。気付いた時には、すでに私の足も走り始めていました。



リーオを置いて校内をぶらぶらと歩いていた。渡り廊下に差し掛かった時、下から話し声が聞こえ何の気なしに視線を向ける。そこにいたのは、学内でもタチの悪い成金貴族の子息と…胸くそ悪いベザリウス家のアイツだった。不意に気分が悪くなり、さっさと帰ろうと踵を返した瞬間聞こえてきた会話の内容。

(…俺には関係無い)

ベザリウスの人間がどうなろうが、俺には全く関係無いんだ。寧ろザマァミロ。あんな脳天気そうな顔して裏じゃあ何考えてんかわかんねえ。ヤな奴同士仲良くやれば…


「クソッ…!!」


頭で考えるより先に、身体が動いていた。勝手に。


**


「はあっ、はっ、あのっ…!!」

「………」

「あのっ、エリオットくん!」


私の手を引いて走る、後ろ姿。視界に飛び込んだ金色に、初めはお兄ちゃんが助けてくれたのだと思いました。優しくて格好良い、エイダの自慢のお兄ちゃん。


「きゃっ!?」

「勘違いすんなよ!これは義務だからなッ!!」

「え??」


いきなり立ち止まったエリオット君の背中にぶつかってしまいました。謝るすきもなく、強い力で彼に引かれていた腕が離され、私は少しよろけて転びそうになりました。思わず目を瞑ったけれど、予想していた衝撃はきません。


「すまない、強過ぎた!…じゃねぇよ!何で俺がベザリウスなんかに謝んなきゃなんねんだ!!」

「あの、エリオットくん…?」


転びかけた私の腕を引いて支えてくれたエリオット君。また助けてもらっちゃった。でも一人で話し始めてしまった彼に、どうして良いか分からず手を伸ばすとその手はペシリと払われてしまいました。何だか怪我をしたネコのようです。


「あ゛?何見てんだよ!!」

「あのっ助けてくれてありがとうございますっ!」

「べっ別にベザリウスなんかを助けたかった訳じゃねぇ!ただナイトレイの家の者として無視出来なかっただけで…!!」

「はい!だからありがとうございます!」

「〜ッ…!!」


いつもは目を合わすことも出来ないエリオット君と、お話し出来たことが嬉しくてついつい話し過ぎてしまったみたいです。エリオット君は頭をガシガシとしてそっぽを向いてしまいました。


「クソッ!!調子狂うな!だいたいお前何時まで此処にいるんだよ!さっさとどっか行けよ!!」

「あ!はい!そうだよね!エリオット君も用事とかあったのならごめんなさ…」

「俺の事はどうでもいんだよ!ったくこれだからベザリウスは…。話が通じねぇ」


クルリと私に背を向けて歩き出してしまったエリオット君。やっぱり忙しかったのかな??速歩きで進んでいってしまいます。


「エリオットくんっ!!本当にさっきはありがとう!!」


お兄ちゃんみたいに優しくはないけれど、本当はとっても優しくて暖かいエリオットくん。遠ざかっていく彼の後ろ姿が、記憶の中のお兄ちゃんと重なって見えた気がしました。



ヒーロー!

(おかえりエリオット、どこか行ってたの?)(…別に)(あれ?すっごく変な顔だけど何かあった?)(うるせえ!なんもねえよッ!!!)


END



エリオットがオズに出会うより前のふたり。
2011/4/24 沫金
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