現パロ/レイムさんとリリィ/ほんのりレイブレ風味




(アイツは何処へ行った?)


久々の休日。何時の間にかうちに住み着いていた同僚の男と、生活用品を買うためデパートに訪れた。せめて荷物持ちでもしろ、と無理矢理に引っ張ってきたのだ。先程まで飼う気もないのにペットコーナーで月色の瞳をした黒猫にちょっかいを出していた筈なのに…。


「全く、ザークシーズの奴…おっと、失礼しまし…あれ?」


どうも癖になっているらしく、眼鏡を磨きながら歩いていると誰かにぶつかってしまった。慌てて謝ろうと顔を上げたが相手がおらずに首を傾げる。確かに衝撃を感じたのだが…


「下だ、ひょろいの!」

「え…わっ!?」


可愛らしい声が聞こえ、いきなり提げていたビニル袋が引っ張られた。思わずその場にしゃがみ込む。そこには髪を肩の辺りで揃え好奇心旺盛そうな瞳をした少女が仁王立ちをしていた。


「あっ君か!さっきはぶつかってすまなかった。少々余所見をしていて」

「まったくっ痛かったぞ!」


腰に手を当て、頬を膨らます目の前の少女になんだか気圧されてしまう。呆けて見つめていると、にゅっと手が伸びてきて私の頬に触れた。それにしても小さな手だな。


「余所見ってことは何か探していたのか?」

「え?…ああ、連れがはぐれてしまって」

「むっ!おまえ迷子なのか、だらしないな!」

「いや、私がではなく、どちらかというとアイツの方が…」


不思議な少女だ。子供らしからぬ話し方をするし、見渡す限り保護者がいない。親は一緒に来ていないのだろうか、こんな小さな子供一人で…今の世の中何かと物騒だというのに。


「よし!わたしがおまえの連れを一緒に探してやろう!ちょうどわたしの連れも迷子なんだ!」


ああ、彼女は迷子だったのか。とりあえず納得した。さてどうするべきか。こんな子供を一人置いていくのは気が引ける。ザクスも捜さなくてはならない。どうせ人捜しをするならば、共に行動するのも有り、か。


「おまえ、なんて名なんだ?わたしはリリィだ!」

「…レイム。レイム=ルネットだ」


**


「レイムレイムッ!あそこに何か面白いモノがあるぞ!!」


頭上から、リリィの溌剌とした声が響く。初めは手を繋いで並んで歩いていた。しかしながらあまりの身長差に彼女が疲れると言い出し(確かに声が聞き取りづらく会話もままならない)、結局この体勢に落ち着いた。リリィは今、私の背中によじ登っている。


「なぁなぁ、レイムー!」

「はぁ…リリィ、ちゃんと親御さん捜しているのか?」

「捜しているぞ!レイムの連れも一緒に!紅い眼をした男だろ?」

「ああ、なら良いんだが…」


互いの連れを捜索し始めて小一時間が経った。その間、リリィは興味を惹くモノを見つける度にこうやって上でジタバタと暴れた。子供というのはつくづく理解不能で突拍子のない生き物だと実感する。少し苦手だ。まあ、理解に苦しむ、という点に関してはあの手の焼ける同居人も同じなのだけど。


「レイムは背が高いな!」

「そうか?」

「わたしの家族にもデカいヤツがいるが、おんなじ位高くて登り甲斐があるぞ!」


父親か兄の話だろうか。表情をくるくると変え、楽しそうに笑う彼女。その様子にこちらも肩の力が抜け和やかな気持ちになる。やっぱり不思議な少女だ。


「レイムの連れは家族なのか?」

「ああ、ザークシーズのことか?いや、アイツはまあ…何というか、友だな」

「どんなヤツなんだ??優しいのか?それとも面白い?」

「いや。態度は横柄だしサボリ魔で言う事聞かないわ仕事は押し付けるわすぐに文句言うわで…とにかく手の掛かる奴なんだ」

「その割に楽しそうだな」

「…は?」


ぐいっと覗き込んだリリィがニコリと笑う。私のずり落ちた眼鏡はひょいと奪われ、そのまま彼女が掛けてしまった。


「ソイツの名を呼ぶときのレイムは優しい顔をしている。よっぽど大切なヤツなんだな!羨ましいぞ!」

「いやっ大切って、そんな…」

「あっレイム!あっちに変なのがたくさんいる!見に行きたいぞ!!」


ドキリとした。理由はわからないけど、何かを言い当てられたような気分だ。そっと彼女を見ると、もうこの話題は終わったとばかりに興味の対象が変わっているようだ。リリィが指差した先は猫や犬、鳥なんかがいるペットコーナーだった。


「レイムーレイムー見に行こうよー」

「しょうがないな…少しだからな?」




「わあっコイツかわいいぞ!」


リリィが1匹の子猫の前で止まった。それははぐれる前にアイツが揶揄っていた黒猫だった。私には何の変哲もない猫に見えるが、何故彼らの目には付くのだろう。気になって、リリィと、ゲージ越しの黒猫と目線が合うようにしゃがみ込んでみた。


「どうした?レイム」

「いや、私の連れもこの黒猫を気にしていたんだ。何かあるのだろうかと思って」

「むっ?うーん、何か…??」


私の些細な疑問に考え込んでしまった彼女。ああ、余計な事を言ったな。此方とゲージを隔てているアクリル板に着いていたリリィの手のひらを、その板越しに猫が舐めた。それを愛おしげに見つめ、彼女は口を開いた。


「ごめんな、わたしはおまえを飼ってはあげられないんだ。なぁレイム、」

「ん?」

「たぶん、似ている気がしたんだ、このにゃんこと。独りぽっちで寂しそうなにゃんこが、昔の、捨てられっ子だった頃のわたしに見えたんだ」

「え…?」

『リリィ!ったく、どこへ行っちゃったのよあの子はッ!!』


リリィの陰った表情と言葉に、聞き返そうと視線を向けた瞬間彼女の名を呼ぶ女性の声が耳に飛び込んできた。次いで、それを宥める温和そうな男性の声。


「ロッティとファングだっ!!」

「親御さんか?」

「親ではないけど、わたしの大切な家族だ!」

「そうか。見つかって良かったな。私は結局何の役にも立てなかったが」


ふわりと頭を撫でてやると、リリィは擽ったそうに目を細めて笑った。子猫のようだ。彼女は、私の、頭に乗せた手に触れた。


「レイムは一緒にいてくれたじゃないか!楽しかったし、嬉しかったぞ!!わたし達はもう、立派な友達だなっ!」

「…ああ、友達だ」


つられて笑った私の顔を見て、リリィは満面の笑みになる。そのまま彼女の、大切な家族の元に走り出した。その小さな背中に少し、さみしく思いながら見送る。


「レイムー!ありがとー!!」


家族の元へたどり着いたリリィが大きな声でさけんだ。なんて突拍子のない…。私を見て手を振る彼女に、苦笑しながら小さく手を振り返した。さて、私もそろそろザークシーズを見つけてやらないと。


「あーんな小さな女の子にデレデレしちゃって。レイムさんってロリコンだったんですネェ」

「ざっ、ザークシーズ!??って痛っ!」

「やーい引っかかったー」


捜していた当人の声がして振り返った途端、頬に奴の指が刺さった。こんな子供騙しに引っかかるとは…地味に痛い。恨みがましくザークシーズを見下ろすと、不機嫌なアイツと目が合った。


「レイムさん、携帯見ました?」

「え?…あ、見てない……」

「ったく…今の御時世こんな便利な通信器具があるってのに、何で君はいざって時に使わないんですかネェ。ワタシは何回も電話掛けたのに」

「すっすまん…」


慌てて取り出してみると、確かにザークシーズから何件もの着信があった。捜し出す事にばかり気を取られていた…。申し訳ない気持ちでザクスを窺うと何故か盛大に噴き出された。何笑ってるんだお前。


「そんなに怒ってませんヨォ〜実はすぐに見つけ出して、腹いせにずっと視てましたカラ☆」

「は…??」

「いやぁ見物でしたネェ、堅物の君が幼女に振り回されてアタフタする様は」

「ッコノ性悪…!!」


私の攻撃をヒョイとかわし、動きを止めたザークシーズ。アイツは何処か一点に注目している。辿った視線の先は、やはりあの黒猫だった。



昼下がりランデブー



「気になるのか?」

「え、ああ、そういうワケじゃ…」

「…お前も世話をするのならば、飼ってもいいぞ。ただし、本当にちゃんと面倒見るならな」

「いいんですカッ?」


不意に口をついて出てきた言葉。らしくないと思った。ただ、こんなザクスの笑顔が見られるのならば。それも良いかと思ったんだ。それに。あの黒猫と暮らしていれば、いつかひょっこりリリィが遊びに来るような、そんな気がした。


END



あのふたりが友達になれる日を切に願ってる。
2011/4/3 沫金
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