(下衆原×にょ静/生理) 頭がガンガンするし腹はじくじくと痛む。座り込んだ屋上の無慈悲な固さと冷たさも相まって静雄は身を守るように自分の腕を抱き蹲っていた。 「…チッ」 「イヤだなあ!屋上は公共の場なんだから俺が来たっていいだろう?ねぇシズちゃん」 「…別に何も言ってねぇだろ」 やっとの思いで人がいない場所を見つけたのに。目を瞑り、どうにか痛みをやり過ごそうと思っていたのに。アイツは何時も最悪なタイミングで現れる。いや、アイツの顔を見るだけで何時でも最悪な気分になるんだけど。とにかく、ガチャリと響いた扉の音とアイツの臭いを感じた瞬間、俺の気分は急降下した。 「鏡見てみればー?顔に書いてあるよ。それにさぁ、いくらなんでも舌打ちはないんでない?シズちゃんはそれでもオンナノコなんだから」 臨也の吐いた"オンナノコ"という言葉が引っ掛かった。コイツが俺を人間扱い、まして女扱いなんてしてきた例はない。しかも、何でこのタイミングで。今一番聞きたくないワードだ。 「シズちゃん自身が今、身を持って感じてるんじゃないの?自分はオンナノコなんだ、って!」 「ッ!!」 コイツ、なんで知ってんだッ??別に誰にも言ったことないし(んな恥ずかしいこと…)、まず第一に臨也が知ってるとか有り得ない。気持ち悪ぃ。多分表情に出ていたのだろう。臨也はあの苛つく笑顔を貼り付け続けた。 「あは、何で知ってるのって顔してるね。でも残念!いくらシズちゃんでもこれは教えてあげられないなぁ!情報屋さんのヒ・ミ・ツ☆だからね!」 ああ、うぜえうぜえうぜえ早く死んでくれないかコイツ。頼むから黙ってくれ死んでくれ。あの苛つく笑い方も声も言葉も。折原臨也の生み出すものは全てがうぜえ。反吐が出る。俺は無意識に近くに設置されたベンチを掴んだ。何でも良いからコイツの口を塞ぎたい一心で。 「はぁ、シズちゃんって芸が無いよね。単細胞で短気で。これだから大っ嫌いなんだ」 「うぜえんだよさっきからベラベラベラベラ、男のクセにちょっとは黙れねぇのかそのうるせえ口はよぉ!」 「男のクセに、は偏見だよ?まったく頭悪いんだから。シズちゃんだって女のクセにベンチなんて持ち上げちゃって…ああごめん、君は女どころか人間じゃないんだったね…この化け物が」 「ッ!!!うぜえうぜえうぜえうぜえッ!殺す!今日こそ殺すッ!!」 「おっと、」 ブンッ、とベンチが風を切る音が鳴り、次いで金属が拉げる音、狂ったような嗤い声が響いた。臨也が俺が振り下ろしたベンチを避けたのだ。つくづく忌々しいノミ蟲野郎だな。 「ちょこまかとうぜえんだよッ!大人しく死ね!!」 「やっだなぁ物騒!俺がシズちゃんに殺されるわけないじゃーん」 「殺す!死…ッ!?」 「…シズちゃん?」 すかさず2発目を繰り出そうと腕を振り上げたところで不快な衝撃が走り思わず動きを止めてしまった。膣からどろりと流れ出た液体は、紛れもなく俺が女である証だった。 「…ふーん?あれか、もしかして今出たのかな?」 「ッ、来るな!近付くな気持ち悪ぃ!!」 隙をつき、厭らしい笑みを浮かべた臨也に間合いを取られた。一気に近付いた距離に脳内で本能的な警鐘が鳴り響く。 「俺さぁ、前々から見てみたかったんだよね。切りつけても全然流れてくれない、シズちゃんの血が溢れ出る様をさ!」 ぞわり。背筋に言い様のない寒気が走った。コイツ、何を言ってんだ?本気で気持ち悪い。舌なめずりをしながら恍惚とした表情を晒す目の前の男に、俺は初めて恐怖を覚えた。 「なっ!どこ触って、だよッ!!やめっ…ひっ!?」 「何時もよりごわごわしてるね。あはは、ナプキンつけてるからか」 コイツ、最低の下衆野郎だ。 信じらんねえ。距離が詰められたと思ったら腰を掴まれ気持ち悪い手つきで太股を撫で上げられた。抵抗もままならない内に蟲野郎の手がスカートの中に突っ込まれ、下着の上をあの指先が這う。また不快な感覚がじわりと襲った。最悪だ。涙が滲んだ。 「シズちゃんのココ、熱いね。興奮してるの?」 「んなワケ、ねぇだろ…ッ」 「へぇ、俺はしてるけどね」 相変わらず頭はガンガンするし腹はじくじくと痛む。加えて臨也の声、臭い、言葉、苛つく顔。近くにあるだけで嫌悪感で腹ン中がざわついて仕様がねぇ。臨也の熱っぽく耳障りな荒い息や押し付けられた下半身の固い感触は気持ち悪いばかりで、吐き気が増す一方だ。 「なっ…やッ!!」 「あは、アハハハ!シズちゃん、ドロッドロだね!!」 ぐちゅり、ぐちゃり。耳を塞ぎたくなるような厭な音を立てながら下着の隙間から差し入れられた臨也の指が蠢く。なんで、こんなことに。なんで。気持ち悪くて嫌で嫌で悔しくて仕方無くて。思い切り瞑った目尻からぼろりと涙が零れた。すかさず頬に這わされた熱い舌に、この悪夢の終焉だけを切に願う。 「フフ、ハハ…シズちゃんの血でこんなに汚れちゃった!アハハ!」 (とち狂ってる…!) ずるりと指が引き抜かれ、この胸糞悪い行為も終わると安堵したのも束の間。薄らと開いた目が映したモノは、俺の血が付着した指を舐める臨也の姿だった。 「もぉっと愉しいコトしようよ、シズちゃん」 至極楽しそうに目を細めた臨也の瞳が、舌が、口端に垂れた経血が。俺の視界を真っ赤に染めて焼き付いて離れねえ。治まらない、吐き気。ぐらり。世界が暗転した。悪夢は終わらない。 END 2012/1/24 沫金 |