「ねえシズちゃん。俺のことすき?」


ノミ蟲野郎は、とうとう頭ん中にも虫がわいたのかと本気で思った。


「あ?」

「いつもシズちゃん冷たいんだもん。俺はこんなにも全身で君への愛を表しているのに!」

「うぜえきめえ離れろ」


ぎゅっ、と後ろから抱きつかれ思わず悪態を吐いた。腹に腕をまわされ、臨也の穏やかな心音がくっ付いた背中から伝わる。そのあたたかさが心地良いと思ってしまう自分が、なんだか負けたようで悔しかった。静雄の心臓は反対にうるさくなるばかりだ。


「すきだよシズちゃん。ねえ、君も俺のこと、すき?」

「っ!…し しらねえ!」

「それはおかしいねぇ。自分のことなのに、知らないの?」


脱色の繰り返しですっかり傷みきってしまった金色の髪を優しく梳かれ、のぞいた項にちゅっと唇を落とされた。ひくりと肩が震え、舌打ちをしたくなる。

いつもこうだ。臨也は静雄にすきだと言う。何回も何回も、それは馬鹿みたいに繰り返し言うのだ。そのたびに静雄は駄目になってしまう気がしてこわかった。甘やかされることに喜びを覚え、臨也がいないと駄目になってしまう。そんな自分がいやだと思う。


「君がなにを恐がっているのか、俺にはわからないけれど、」

「…ッ!」

「俺は、君を手放すつもりは微塵もないよ。…一生ね」


こわかった。今でもやっぱりこわいのだ。だってもし、こうやって愛を囁くこの男がいつか自分から離れていってしまったら。自分はどうなってしまうのだろう。そう思うとどうしても、最後の最後で彼の差し伸べる手がつかめなかった。すき、という言葉に、おんなじ言葉が返せない。静雄だって、臨也がすきですきで、どうしようもないというのに。手に入れてしまうことがこわくて、いつだって動けなくなってしまうのだ。


「…臆病なシズちゃん。まあ、いつか、君の口から直接聞けることを楽しみにしてるよ」


寂しそうに笑った臨也を見ていられなくて目を逸らした。こんな顔をさせたい訳じゃないのに。つくづく自分はうまくやれない。何かを言わなければ。言ってやらなければ、臨也が泣き出してしまう気がした。


「い、いざや」

「んー?」


臨也の手に触れると指先を絡められた。いつだって静雄にナイフを振りかざし心を傷つけていた臨也の右手が、今ではこんなに優しく触れてくる。もう、昔の憎み、殺し合っていた俺らではないのだ。


「いざや、いざや、」

「なあにシズちゃん」

「おれ だって、」

「うん」


「す、…き、じゃ ないやつと、いっしょになんかいねえよ、ばか」


また、うまく言えなかった。すきだと、そう伝えてやりたかったのに。なのに臨也のやつは そっか。と嬉しそうに微笑うのだ。触れ合った背から臨也の振動が伝わって心地良い。なんだか柄にもなく鼻の奥がツンと痛んだ。




臆病者だと君がわらうから


END

2011/10/12 沫金
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