むかしむかし、今よりもう少し純粋だったころ描いた未来。自分の両親のように、適当な年齢で結婚して子供が出来て毎日働いて。まあそれから月日が経ち、そんなありきたりでいかにも人間みたいな人生を歩める存在ではないと早々に自覚した。自覚はしていたが。まさかこんな未来なんて、幾ら俺でも予想外ではないか。


「シズちゃーん、ごはん出来たよ。手ぇ洗っといで」

「んー」


彼と出会ったのは高校の頃。初めてあいつの姿を、その力を目の当たりにした時湧き上がったのは純粋な好奇心と歓喜、それとあまりに人間離れした存在への嫌悪感だった。俺は人間が好きだ。そう、人間という種族を愛していた。だからあの頃の俺は、人間のなり損ないである化け物の存在を認めるわけにはいかなかったのだ。


「…いただきます」

「ふふ、めしあがれ。今日はね、ちょっと趣向を凝らしてソースの味を変えてみたんだ。どう、美味しい?」

「ん、うまい」

「そ?良かった」


こんな風になる筈じゃなかったんだ。こんなにも穏やかで絵に描いたような日常、俺にもあいつにも似合わないじゃないか。ましてや俺達ふたりが同じ食卓で食事をとる、なんて。昔の俺が見たら、反吐が出る、なんて笑えない冗談だ とか吐き捨てるかもしれない。


「あーもう、口の横付いてるよ。こどもみたいなんだから」

「うっせ。あ、ちょっ」

「かあいいね、シズちゃん顔真っ赤」

「だまれうぜえしね!なっなに舐めてんだよばかやろう!!」


いつからこんなにすきになってしまったんだろう。嫌いで疎ましくて、早く死ねば良いと思っていたのに。いや違うか。本当は、初めて見た瞬間からとっくに心奪われていたのかもしれない。高校の頃から、毎日馬鹿みたいに彼のことを考え、頭の中はいつでもシズちゃんで一杯だった。いつしか自分の中に嫌悪以外の感情――誰にも渡したくない、自分だけを見て欲しい、愛しい、触りたい。そういった恋愛感情を見つけてしまい、俺は愕然とした。


「ごめんってば。機嫌直してよ、ね?」

「……」

「俺もう今日は仕事ないし、午後いっぱい甘やかしてあげるからさ!」

「……プリンも食いてえ」

「もちろん買ってあげるよ!」


これは恋だ。彼と過ごす中で胸の内に湧き上がってくるこの感情は、自分が今まで散々馬鹿にして高見から見下ろしてきた恋愛感情、人間の恋。それが今まさに自分に生まれ、大事に育ててしまっていた。一時はそんな自分の変化が気持ち悪くて認められなかった。だってそうだろう?この俺が人間共と同じように恋に落ち、相手に振り回されるような恋愛をするなんてさあ!想像もしなかった。しかも相手は人間じゃない。化け物とずっと蔑んできたシズちゃんだ。彼を好きだと気付いてしまった時、俺が信じてきた俺の中の自分像や常識、矜持…とにかく全てを粉々にぶち壊された。これから訪れたかもしれないあらゆる可能性さえもぶっ壊し、俺の全てをかっ攫って離さない、俺だけの大切な化け物。


「シズちゃんといると、やっぱ飽きないなあ」

「俺は年中イライラする」

「素直じゃないんだから」


俺はシズちゃんがだいすきだ。人間を愛してやまなかったこの俺が、今では平和島静雄ただひとりに溢れんばかりの愛情を注ぐ。馬鹿らしくって青臭くって嫌んなるくらい人間らしい俺を、俺は知らない。すきなひとに嫌われたくなくて笑顔になって欲しくて、躍起になり時にはご機嫌取りに徹するような、必死な自分なんか知りたくはなかった。それでも。シズちゃんのことがすきな自分のことを、存外嫌いではない。


「ねえシズちゃん。君と出逢ってから俺の人生設計滅茶苦茶だよ」

「ああ゛?」

「だからさ、責任取って一生俺の隣にいてよ」

「………ふん。しょうがねえな」


君とだったら、大昔に描いた夢の続きを見ることが出来るかもしれない。



幸せ家族計画


END


ついったで反応してくれたひーちゃんに捧ぐ^^
2012/6/3 沫金
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