※14巻収録,本誌1月号までネタバレ/ユラ邸帰還後をがっつり捏造/レインズワース邸で療養中 「風邪を引くぞ、ザクス」 夜風に当たろうと繰り出したレインズワース邸の中庭。若くて未熟だった頃、よくシャロン様と散歩した道をひとり歩き懐かしさに浸っていた。そこでふとみつけた見慣れた背中。月明かりを浴びる彼の白さだけが浮き彫りにされているようだった。 「ザークシーズ?……なんだ、泣いてたのか」 「…っんなワケないデショウ!」 ぐっと真っ白な夜着の袖で目元を拭い、ブレイクは覗き込まれまいとそっぽを向いた。そんな幼げな行動に笑みを漏らし、レイムは彼の隣に腰を下ろす。 「出歩いて大丈夫なんですカ」 「お陰様でな。おまえこそ平気なのか?」 レイムの問い掛けにブレイクは曖昧に笑ってごまかす。何時だってそうだ。この男はなんでも上手にはぐらかして本当の気持ちを此方に見せてはくれない。 「お互いに満身創痍、ボロボロだな」 「レイムさんと一緒にしないでくだサイ。君は生死をさ迷った身デショウ?」 「おまえだって死ぬ気満々だった、とギルバート様が言っておられたぞ。一緒だ」 「っんの若様…」 ブレイクがあとで覚えといてください、などとブツブツ呟くのを聞き、ギルバート様に申し訳無いことをした…!とレイムが顔を青くしていると、不意にブレイクが彼の頬に触れた。 「オヤ、今日はレイムさん眼鏡掛けてないんですネ」 「あ、ああ。その…あれは使い物にならなくなったからな」 「眼鏡が無いとホンットに目つきわるかったですよネェ君って」 「大きなお世話だ!」 指で輪を作り、眼鏡を模して揶揄う友人に一喝し止めるように手首を掴んだ。記憶の中のそれよりもまた細くなっている。レイムは内心溜息を吐いた。 「なぁザクス、」 「ハイ?」 右手は手首を掴んだまま、左だけ今度はレイムがブレイクの頬に触れた。そっと右眼の下を指でなぞる。先程強く擦ったせいで少し朱くなっていた。彼の行動が分からないブレイクは、じっとレイムの様子を窺う。 「黙っていてすまなかった」 「何をデス?」 「三月ウサギ(マーチヘア)の能力のこと…」 ぴくりと掴んだ左手が反応した。しかし、表情は変わらぬままの貼り付けたような笑顔だ。何も感じていない筈がないのに。この男が、本当は人一倍優しく人の為ばかりに生きていることをレイムは知っていた。知っているからこそ心配だった。 「何故君が謝る必要があるんデス?ワタシにだって秘密のひとつやふたつや、まあみっつぐらいありますヨォ?」 いつか彼の内側に渦巻く本音に彼自身が潰されてしまわないだろうか、と。ブレイクが目線を逸らして茶化そうとしたが、レイムはそれを無視して続けた。 「心配、掛けたな」 「別に心配なんか、」 「おまえのフォローをするなんて息巻いていたが…結局は足を引っ張ってしまったらしい。我ながら情け無い」 「そんなっ!」 「本当にすまなかった」 言って、レイムが寂しそうに微笑う。壊れ物を扱うような手つきで頬を撫でられたブレイクはくしゃりと顔を歪めた。 「どうしてッ??何でワタシより先に謝っちゃうんですカ君は!!」 ドンッと体当たりさながらの勢いで向かってきたブレイクを、慌てて抱き留める。強く背に縋る腕に苦笑しつつ宥めるように彼の背をたたいてやると、腕の中から微かにスンと鼻を啜る音が聞こえてきた。 「なんで泣くんだ」 「ダカラ泣いてなんていませンッ!」 「意地っ張りだな、ザクスは」 「レイムさんそれ以上言ったラはっ倒しますヨ??」 垣間見えた不器用な彼の素顔に、レイムが楽しそうに笑った。ブレイクはそんな彼に顔を真っ赤にして抗議する。珍しく優位に立たれ悔しげに睨んだが、涙に濡れた眼では威力も半減だ。レイムは両手でブレイクの頬を包み込んだ。 「ッ視ないでくださいヨ!」 「視てないぞ」 「ウソ吐かないでください…」 ブレイクの小さな反抗は、ふたりの咥内に閉じ込められいつしか消えてしまった。 蜂蜜レモネードで溺死 「レイムさん、」 「何だ?」 「…私より先に死なないでください」 レイムの肩口に顔を押し付け、ブレイクが小さく呟く。独り言のようなそれは、あまりにも切ない響きを持って空間に落ちた。 「…残酷なお願いだな」 レイムは困ったように微笑うだけだった。 END メンタル弱り切ってるブレイクさんと男前レイムさん 2011/2/10 沫金 |