「そんな所でモジモジしてどうしたんデス?」


ガサリ。背後で盛大に枯れ葉を踏む音が聞こえた。音を立てた本人は此方が彼に気付いていないとでも思っていたのだろうか、其方を見ずとも相手の動揺が伺える。振り返ると、思った通り不自然に狼狽えるギルバート君が立っていた。


「き、気付いて…」

「10分も後ろでウロウロされていたら厭でも気付きますヨ。何か用ですカ?」

「うっ…その、だな、」


なんとも歯切れの悪い。10分間も待ってやったにもかかわらず、この期に及んで言い淀むとは…こうもヘタレだと本気でイライラしますねぇ。促すように目線を向けると、びくりと肩を小さく揺らして彼は更に縮こまってしまった。


「ハァ…とりあえず座りませんカ?いい加減首が疲れましタ」

「あっ、す 済まない!!」


段差に腰掛けているところを振り返っていた為、姿勢に少々無理があった。腹の立つ事に可愛げなく育ってしまったギルバート君は、一際高い位置に頭があって見上げ続けるのが些かキツかったのだ。おずおずと隣に彼が座ったのを見計らい、再び先を促す。サッサと結論を出してもらえないだろうか全く。


「で?」

「うー…あー…ただ、その…懐かしくて、つい その、」

「懐かしい?何がデス」

「お前の、あー…う、後ろ姿が」

「…ハイ?」


何を言い出すかと思えば、ワタシの後ろ姿?ホント何なんですかこのお子様は。


「意味が分かりませン」

「だからっその…ナイトレイにいた頃は、たまに会っていただろう?公園で」

「エエ。ナイトレイの実状を報告しろ、それが条件でしたからネ」

「その時の、待ち合わせで待ってたお前の背中と重なって…声を掛けたくなったんだ…」

「掛ければ良いじゃないですカ。何を躊躇うんデス?」


それは…とまたまた言い淀む目の前の青年。自分の服の裾を弄くってはもぞもぞと落ち着かない。君はいつからそんな乙女になったんだ。そろそろ本気でいい加減にしてくれ。


「わっ話題が見つからなくて!今までブレイクとどんな話してたかとかも全然思い出せなくなって…悩んでたらお前に声、掛けられた」

「…ハァ」

「すっすまん!!呆れた、よな…」


最近のギルバート君がワタシとの距離を捉えあぐねている事に、気付いてはいた。彼の世界であり全てであった主人が帰還し、正体もバレて穏やかな日々を取り戻しつつある近頃。己の主の為にあくせく働く事も日常となり、やっと他の物事に思考が回り始めたのだろう。(相変わらずの鳥頭ですネ)


「まあ、正直呆れましタ。君の悩むポイントが理解出来ませン」

「っ…!!」


ワタシの言葉に今度は悄げきった様子でうなだれた。不器用でぶっきらぼうなクセにこうも感情が表に筒抜け、考えている事が手に取るように分かってしまうことを彼は知っているのだろうか。


「ただ、」

「なに…?」

「君が久々にワタシに甘えたいって事は十二分に伝わりましタ」

「はぁっ??」


クイッとギルバート君の外套の裾を引っ張った。そのまま彼の頭を自分の膝に乗せて労うようによしよしと撫でてやる。最初はジタバタと暴れていた彼だが徐々に大人しくなり、不貞腐れたようにちょこんと膝に擦り寄った。本当に素直じゃない。

今のギルバート君はまるで母親の愛情を欲しがる子供のようだ。オズ君が帰ってきた事をキッカケに崩れた10年間の均衡を必死に保とうと、自分の居場所を掴もうと、一生懸命もがいている。


「懐かしいですネェ、こうやって膝枕してあげるの」

「嘘言うなっ!いっ今が初めてだろうがっ」

「そうでしたっけー?」

「そうだッ!!」


たまには思い切り甘やかしてやるのも良いかもしれない。何だかんだで頑張り屋の彼には休息も必要だろう。後々ウジウジと悩まれても困りますし。


「さあさギルバート君。このまま少しお昼寝しても良いですヨ」

「え?いや、」

「ほら、目を瞑って」


そっと目蓋に指を触れ閉じてやると、今度は何の抵抗も無くすんなりと従った。程なくして微かな寝息が聴こえてくる。やはり相当疲れが溜まっていたようだ。


「ゆっくりお休みなさい、ギルバート君」



三日月のゆりかご



「ギルー?もーっどこ行っちゃったんだろうアイツ…あ、ブレイク!」

「オヤ、オズ君じゃないですか」

「ねーねーギル知らな い…?」

「フフ、驚きましタ?すっかりお休み中なんですヨ」


どうやらギルバート君を探しに来たらしいオズ君。ワタシの膝の上でぐっすりの従者を見て普段から大きい翡翠色の眼を更に大きくさせた。


「うっわ珍しーギルの寝顔!俺あんま見た事ないんだよねー」


人差し指で従者の頬をつつく主である少年。つつかれた彼はそれでも一向に起きる気配がなく、少し唸った後また寝息を立てている。オズ君は未だ膝に頬杖をついて物珍しそうに自分の従者を観察中だ。


「幸せそうな顔しちゃって」

「まったくですネェ。こっちの気持ちも知らないでまあ、」

「ん?何か言った?」

「イーエ何も。ただの独り言ですヨ」


さて、彼が起きたらどうやってからかってやりましょうかね。こっそりとほくそ笑みながら、熟睡中の頭をもうひと撫でした。


END



甘いのも好きだけどこういうモヤモヤする関係大好きです。
2010/12/16 沫金
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