「…ん、」


ここはどこで、今は何時だろうか。いつ、寝てしまったんだろう。ギルバートは覚醒しきらない頭でぼんやりと記憶を辿る。確か、溜まっていた仕事に区切りがつき、ブレイクの部屋に渡しに行ったらアイツとレイムがいて、噎せ返るような甘い香りとアルコール、そんで少しだけ と酒を勧められ、それから、それから……


「気が付きマシタ?」

「ブレ、ク…?」


まだ半分もあがりきっていない瞼の隙間から見えたのは、さらりと流れる銀色の髪とルビーのような真っ赤の眼。涙の膜で曖昧な視界の中のそれらはとても綺麗に映り、なんだか不意に掴める気がしたので試しにそろりと手を伸ばしてみる。が、やんわりと指先を掴まれ制されてしまった。


「オヤ、まだ寝ぼけてるんですカ?」


くすくすと漏れ聞こえる笑い声が悔しくて掴まれていた手を払う。払った後、少しのことでムキになった自分が子供のようで更に嫌になった。


「寝ぼけてないッ!」


先程振り払ったブレイクの指先が、頬に触れる。アルコールによって火照ったそこに体温の低い指先が這い、心地良さにギルバートは目を細めた。ブレイクの指先はひんやりとして死人のよう。時折心配になる。


「まだ眠たいデショウ?朝まで時間がありますから、もう一度寝てしまいなさいナ」

「だが、仕事が、途中で…」

「君が持ってきた分でとりあえず大丈夫デスヨ。残りはワタシが片付けマスんで」


だから おやすみなさい。冷たい彼の手がギルバートの瞼に触れ、ゆっくりと撫でる。連日のデスクワークで疲れ切っていた身体は実に従順だ。すぐに金色の瞳はとろりと溶け眉間に寄せられた皺も和らいでゆく。


「いつも無理させちゃってスミマセン」

「そう思うなら…少しは、働けよ」

「ふふ、気が向いたらそうシマス」

「なあ、ブレイク」


心地良い酩酊のなか、ギルバートは目を閉じたまま夢見心地でブレイクの名を呼ぶ。何デス?と答えると彼はふわりと口元を緩め微笑んだ。


「それ、気持ちいから、続けてくれ」

「撫でるの、ですカ?」

「…ああ」


普段なら絶対に言わないであろう台詞にブレイクは少し驚いた。むしろ全力で嫌がるような行為だろう。珍しいギルバートのおねだりは、彼が夢の中に足を突っ込んでいる証拠。


「わかりました。君が目覚めるまで傍にいますから、安心なさい」

心地良い眠りにおちる直前、うっすらと開いた瞼の隙間からギルバートが見たのは、ブレイクの優しい微笑だった。普段あまり見ることのできない、貴重な表情。なんだ、そんな顔も出来るんじゃないか。そんなことを思った。



優しい時間


END



実はギルバートが気付いてないだけでブレイクさんしょっちゅう愛しみを込めた表情向けてると良いですよね。
2012/8/13 沫金
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