かちゃり。控え目に開いた扉から漏れ入った光に目が眩んだ。次いで空間に落ちた声音は聞き馴染んだもので、冷え切った室内の空気が少しだけ和らいだように錯覚。音のした方向にゆっくり顔を向けると眼鏡の奥、怒気を孕んだ瞳とかち合った。


「オヤ、レイムさん。どうかしましタ?」


彼の表情や纏う空気、そして最近の己の行動を顧みて、何を言いたいのかは大体予想がついたが敢えて気の付かない振りをする。どうせお説教だろう。へらりとした笑みを顔に貼り付けながら、ブレイクは内心で溜息を吐いた。


「お前、近頃寝ていないだろう」

「そんなことないですヨ〜ワタシ、お休み大好きですモン!」

「茶化すな。まったくお前という奴は…そんなふざけた笑い方も出来るようになって少しはマシになったかと思ったが…」


つかつかと窓枠に座るブレイクに近付いてきたレイム。すらりと伸びてきた彼の指先がブレイクの額に触れ、そのまま目蓋まで下りてきた。あたたかな人の温もりに強張っていた身体が楽になるのを感じる。


「少し寝ろ」

「でもまだお仕事終わってませんヨ」

「どうせ起きていてもやらないだろうが。いいから休め」


グイと腕を引かれ、そのまま寝台まで引きずられ投げられた。ブレイクの身体を受けとめたベッドのスプリングがぎしりと軋む。


「イタタタ…ちょっと非道いじゃないデスカ!粗暴な男は嫌われますヨ〜?」

「煩い!お前は何でいつも限界まで無理をするんだ!!」

「無理なんてしてませんって」

「お前の言い分なんて信じられるか!隈ばかり成長させやがって、中身はなんの進歩もない!」


レイムの剣幕にブレイクはうぐぐ と変な呻き声を上げ、拗ねたように毛布へと潜り込んだ。それでもレイムの小言は続く。寝かせたいのかそうでないのかわかったもんじゃないな、とブレイクはウンザリしてしまう。


「おい、ザークシーズ!聞いてるのか!!」

「聞こえてますヨ〜もうわかったから寝ます!寝れば良いんデショウ?」

「お前はそう言って毎回毎回……まあ良い。寝ろ」


もぞりと毛布から目だけ出し、此方を伺う男の姿にレイムは苦笑を漏らす。いつもは飄々として人を小馬鹿にしたような顔をしているクセに。


「あの、レイムさん…」

「何だその情けない顔は。…わかってる、ここに居てやるから」


だから安心して寝てろ。そう言いながら、レイムは居心地が悪そうにもぞもぞ落ち着かないブレイクの横に腰掛ける。彼の体重分沈み込んだベッドの感覚が心地良く、ブレイクの胸中に淡い安堵をもたらした。次いで訪れるのは緩やかな睡魔と目元を覆った温かい手のひら。


「レイムさん、」

「何だ」

「ふふ、呼んでみたかっただけデス。おやすみなさい」

「ああ」



ノンレイム睡眠



全く、一回りも年下に説教された挙げ句寝かしつけられるなんて恥ずかしい奴だな。溜め息混じりに呟かれた文句を聞きながら、ブレイクはゆっくりと瞼を閉じた。久しぶりに訪れた暗闇は、仄かに優しい闇だった。


END



ノンレム睡眠って実際は熟睡の方ですよね。タイトル矛盾してます
2012/1/24 沫金
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