◆7
「シンジ?」
ひそひそ声で呼びかけても返事はなく、どうやら本当に寝ているらしかった。ソファーに頭をもたせかけ横を向いているので、普段髪で隠された耳から首筋にかけての肌が露わになっている。
(うわぁ。色っぽい、かも)
そろそろと近づいてみると健やかな寝息が聞こえてきて胸がきゅんとした。いつもの隙のない姿からは想像もつかないほど無防備で、なんだか可愛くも思えてくる。せっかくだからいつもできないことをしてやろうと思って、シンジのほっぺたに唇をくっつけた。
いつも照れくさくて言えない言葉も、今なら言える気がする。私はシンジの髪を指ですきながら、一番伝えたいことを言った。


◆8
「(うわぁ、いざ言葉にしてみると恥ずかしい!)」
「俺が寝てるとなったらずいぶん素直だな?」
「なっ、起きてたの!? 返事しなかったからてっきり……!」
「わざとに決まってるだろ。あんな寝たふりにひっかかるなんて、ぬるいな」
「わ、無防備で可愛いとか思った私馬鹿だった……!」
「俺がそうそう無防備になると思うな」
「たしかに、シンジにしては珍しいなと思ったんだよね。もう、恥かいたよ!」
「……おい」
「うん?」
(ちゅっ)

「……好きだ。
これで平等だろ」
「……はい(なんか負けた気がする)」


◆9
穏やかな風に揺られる芝生は水面のように柔らかく波打ち、空の高いところに流れる雲の影がゆったりとその上を滑っていく。隙間から射す柔らかな陽光に照らされたシンジの背中を追いかけてると、木の根につまづいてしまい、いた、と小さく呟いた。するとシンジが振り返って、何も言わずに私の手をさっと握って歩き続けた。足の遅い私にとっては速い歩調で、繋ぎ方もやや乱暴で。でも触れているところはまるで日溜まりに手を差し伸べたみたいに暖かい。
シンジの背中をいつも追いかけては転びそうになる私を振り返ってくれる、不器用で優しい彼の隣にいつか相応しくなれたら。
繋いだ手に力をこめたら、ぎゅっと握り返してくれた。




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