あんなに人を活気づかせ、街を賑やかにしていた夏が過ぎたせいか、秋のはじまりというのはどこか寂しげである。
熱をふくんだ空気は澄みわたり、空も高くなったようで、とりポケモンの鳴き声が遠くからのささやきとなって耳をかすめる。
シンオウは冬が長く、雪は深い。見渡す限りの白に覆われると、暗闇に放り出された子供のように、どこへ行ってよいのかもわからなくなる。伸ばした手が誰にも届かない気がしてならないのだ。

シンジはそんな冬を思い出して、胸のうちがしんしんと凍えてゆくのを感じた。
つないだ手にも無意識に力がこもる。
「シンジくん、どうしたの?」
柔らかな声が体の奥にまで染み渡るようだった。つないだ手を離したくない、そんな思いが滲み出てきて、傍にいる人を軽く抱きしめた。彼女は驚いたようだがじっと動かずに息をひそめている。
指先をすくいあげるようにして絡ませると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
あったかいね、と呟く声が耳をくすぐる。
雪に覆われても彼女には手が届くんだろうか。見失わずに、いられるんだろうか。そんな思いを振り払うように、シンジは目を閉じて重ねた肌のぬくもりをたしかめた。


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