**メルクリウスとDies主**

「メルクリウス、ちょっといいかしら」
ふらふらと漂っていた男を声で縛り、影法師との距離を詰める。
「いい? そこから動かないで頂戴よ」
指先を伸ばせば触れる距離で一旦立ち止まり、意を決して眼前の黒衣との距離をゼロにすれば冷えた布が頬を擽った。
「…………君は何をしているのか」
「抱きついているの。ハグよ、ハグ。それくらい知っているでしょう?」
予想していたのとは違うボロ布の感触を不思議に思いながら、回した腕に力を込める。触れた箇所から伝わってくる生命の躍動音に、こんなのでも一応生きているのだなと不思議な気分に陥った。
「東洋では語呂合わせが流行っているらしくて、八月九日という今日はハグの日というのですって」
「ほう。して、君も風習に習った。と――そう言いたいのかね」
「ご名答」
抱きしめた腕を緩め間近にある影を見上げると、数時間前に出会った顔と同じ物が存在しており胸の内に巣くう疑問を増幅させる。
「ねぇ、やはり思うのだけれど……メルクリウス、貴方細いわ」
十中八九このボロ布の下は何も着ていないだろうから、今両腕に感じているのがメルクリウスの厚みだろう。
改めて抱きしめ顕わになった違いに首を傾げ、食事を必要としなそうな男はどうやったら肉付きが良くなるのだろうかと逡巡する。
「蓮君より身長があるのに重量は同じなのかしら? 上に伸びた分薄いってこと?」
「一応聞いておこう。君はシャンバラにいって何をしてきたのか」
「あら、そんな当たり前の問いを口にしなくたって分かっているでしょう? 東洋の風習なのだから、まずは現地から攻めるのが礼儀というものではなくて?」
「ツァラトゥストラを抱いてきたと」
「ええ、そうよ。蓮君も細かったけど、貴方の細さは不健康だわ」
最低限の要素のみで構成されたとしか思えない存在は不健康の代名詞に相応しい。顔だけで判断すれば悪くないのに、性格から始まり体型にまで難があるとは見事としか言えないだろう。
「自称グルメなのだから、もっと食事取りなさいよ……って、無視しないの、ちょっと。メルクリウスってば」
すり抜けようとする影を再び捕まえ、最終手段という名の勝利宣言を眼前の影へと投げつける。
「マリィちゃんのおっぱいはふかふかしてて気持ちよかったのに……。メルクリウス、貴方ももう少し健康的な体になってみたらどうなの? 触れてもつまらないなんて最悪じゃない」
告げた音にざわりと眼前の影が揺らいだのを確認し、小さな悪戯が成功したことに満足した。


8月9日はハグの日!


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