麦わら海賊団の優秀なる航海士は思う。航海日誌とは、即ち、その船の歴史である。それを己が書いているという事に感慨深いものがたまに込み上げてくるときがある。
別にナミはロビンの様に歴史を生業とする考古学者でなければ、歴史に執着を持つ訳ではない。寧ろ過去よりも今!という考えがモットーである彼女にとってロビンには申し訳ないが歴史など無縁と言い切っても良い。
紙の上を滑る様に動くペン。これは彼女のお気に入りのものだ。彼女にしては珍しく、あまり派手な装飾は施されていない。しかし使い込まれたそれは昔からの思い出の品なのだろうというのが考えられる。否、彼女の夢や過去を考えれば、戦友に値すると思われる。
日誌に書き込む度に、小刻みに揺れる体。それをこの船の船長である麦わらのルフィは何故か羨ましげに見つめていた。
「…何よ」
「ん?気付いてたんか」
「当たり前でしょ」
背中に穴が空くかと思ったわ。
くすり、と笑うナミにルフィは眩しそうに目を細めた。そしてそのまま後ろからぎゅうっと抱き付く。随分と伸びた綺麗なオレンジ色の髪が微かに匂う。感触はどこかくすぐったい。
(みかんの匂いだ)
この香りが好きだとルフィは思う。彼女のイメージそのままの柑橘系の独特な爽やかさは心地好い。思わず息を吸い込む。
「ほんと、子供みたい。で、何なの?」
「俺も書きたい!」
呆れた様に聞いたナミに即答した船長様。流石である。そしてそんなルフィの扱いも心得ているナミは更に上手といったところか。
黙って椅子から立ち上がるとペンをルフィに握らせた。
しかし、しばらくしても手が動き出す様には思えない。すると小さく「…何書けば良いんだ?」と少し遠慮がちな声が聞こえた。
(ああもう!何でこいつときたら阿呆なのかしら!)
「大体は私が書いちゃったから殆ど無いわよ」
「えー!!書きたいぞ俺は!」
駄々をこねるルフィに頭を抱えたくなる。本当にこいつは自分より年上なのか?と疑問が頭の隅々まで巡る。
「何だか頭痛くなってきたわ…」
「そ、そうなのか?大丈夫か?」
急に慌てる目の前の男に、その原因はあんたよ、と伝えたらそれはそれは面白いだろう。 酷く面食らった顔が見たい気もするが、また別の機会としよう。
「天候くらいなら、書けるんじゃあないかしら」
ぽつりと呟いた言葉をルフィが聞き逃す訳が無い。
「おう!天気なら俺にも書けるぞ!」
さも当然の様に言うルフィに思わず噴いてしまった。するとルフィは「ナミが笑った!」と騒ぐ。
「ナミが元気になったから晴れだ、晴れ!」
「ちょっと、ルフィ?」
日誌の脇にでかでかと「晴れ」とルフィは書いた。そしてしてやったり、と言いたげにこちらを振り返る。
何だか悔しかったから、その手のペンを掴んで筆圧の強い文字の隣に「曇りのち、」と書いてやった。そして「今日も平和である」と日誌に付け足した。
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