はらはら、はらはらと舞う、白い結晶。
手に触れれば、形は変わり、すぅっと水滴に変わるそれ。
“降りしきる雪”
ふわりと甘い匂いが、女部屋に満ちる。
キッチンからすぐ帰ってきたナミを、先ほどまで外で遊び回っていたルフィが、女部屋でベッドに寝転びつつ出迎えた。
「寒い寒い〜!」
「だろー?」
上着をいくら羽織っても、寒さが紛れない。
ナミが身を竦めたまま、女部屋のドアを素早く片手で閉めた。
キッチンからもらってきた、甘い香りを放つ温かなマグカップに悴んだ指先を包みこむ。
香りと湯気に誘われて、ルフィがベッドから飛び起きて、鼻をくんくんと嗅ぐ。
「ん、ナミ。それ何だ?」
「ココアよ。」
「でもなんか違う匂いがすんな」
「オレンジピール入りだからね」
「そうかーそうかー!」
「…飲みたいんでしょ?」
「おう!!」
隠す気ゼロか、と両頬を片手で挟めて伸ばす。
「そんなにココア飲みたいんなら、サンジくんに作ってもらいなさいよ」
「それ、うまほーじゃん!」
「だからおんなじのを…」
ナミの言葉を待たないまま、ぐい、とマグカップを持つナミの手を自分のほうに引き寄せた。
ナミの手のその上から、ルフィの手がふわりと重なる。
そのまま飲みかけのココアがルフィの口に流れる。
「ちょっと、ルフィ!?何して…」
「んーあんまり味は変わんねぇな。ココア味だ」
「もう、バカ!」
ペロッと舌を出して、ルフィが無邪気に感想を述べる。
思わず顔をトマトのように真っ赤にさせて、ナミがココアを奪い返す。
「だって寒ぃんだもんよ!雪はいいよな!ししし」
「…まぁ、たまにはね」
気温差で曇る窓を見つつ、降り続けてやまない牡丹雪を眺める。
数時間前、見通しが徐々に悪くなってきた白ばかりの視界に、しばらく近くの岸に停泊していたほうが良さそうだと、手早く判断したのはやはり正解だった。
「めちゃめちゃ遊んだら、手が真っ赤になっちまった」
ほら、とナミの前に両手を翳す。
「やだ、霜焼けすごいじゃないの。」
「おう、チョッパーに薬もらった!」
じゃーん!と、懐からチューブ型のそれを取り出す。
「いちいち威張るな!…ほら貸して、塗るから」
「ん、ありがとな」
マグカップを机に置いて、薬を受け取りながら、ルフィの両手首を取る。
ひんやり、と温度をナミに直に伝える。
赤くて見てるこちらが痛くなりそうな手のひらに、氷に触れているときのような手首。
ふ、と思わず苦笑した。
「あんた、手冷たい……」
いつもは熱いくらいのくせして、こんなときばっかり。
薬を、赤くなっている患部にゆっくりと丁寧に塗りたくる。
「ナミは、顔が熱そうだな」
「ひゃ…っ!」
額に、ルフィの冷たい唇が降る。
ちゅ、と甘い音が、甘いココアで香る部屋に響く。
ルフィの手に意識が集中していたせいで、不意打ちの悪戯に驚いたナミが、思わず変な声を上げた。
「ななななっ、なにすんのよ!!」
「うまそうだったから。」
「だからって…」
満面の笑みを浮かべるルフィに振り回され、いちいち怒鳴る気も失せては、何も言えなくなった。
ふと視線の先の、黒い髪の毛に、雪が絡んでいる。ほぼ水滴に近いそれが、ルフィの髪の毛を濡らしていた。
それにそっとナミが手を伸ばし、指に乗せて笑む。
すると、ルフィの顔がナミの肩にゆっくり降りていく。
甘えるように、オレンジの髪の毛に鼻を埋もる。
「あっためてくれよ、ナミ」
「あたしが?」
「お前じゃなきゃ、イヤだ」
「相変わらず、わがままなんだから」
「そんなこと、ナミが一番良く知ってんだろ?」
「まぁね」
はらはらと、降りしきる雪が積もる。
それはそっと、厳かにゆっくりと、胸の中に。
ずっと、溶けないで。
ずっと、ずっと。
end
参加させていただき、ありがとうございました(^^)
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