例えば、絶望に墜ち足元が闇に覆われても、その腕には消えない光がある。
立ち上がり、何度だって超えて行こう。
いつか高みへ共に辿り着く、その為に。
over
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それは、ある日の晩の事。
丁度、ロングリングロングランドを出港してからすぐのメリー号。
(……あれ、珍しい)
航海日誌を付け終わり、ナミが気晴らしに甲板へと向かった所。もう既に寝ていたとてっきり思っていたルフィが一人立っていた。
なんとなく、思わず蜜柑の木に隠れて様子を伺った。
彼がいつもの雰囲気では無い事は明白だった。
直立したまま目を閉じたルフィは、深呼吸をした後、少し屈むような姿勢になる。
圧倒的な威圧感に空気が張り詰める。
次第に上昇していく体温に、体から蒸気が発せられる。
目を疑うような眼前の光景に、只ただナミは言葉もできずにしばらく佇んだ。
「……、っあー、もうちょっとなんだけどなー…」
緊張の糸が切れたように、ルフィは疲れ切って床にごろりと寝ころんだ。
「……何やってんのよ、あんた」
「お、ナミ。何だまだ起きてたのか」
「それはこっちのセリフよ」
出ていこうかと逡巡していたナミだったが、結局ルフィの隣に来て話を聞く事にした。
「あんたが隠れて修行とか珍しいわね」
大の字になったままルフィは空を見上げた。分厚い雲が覆った夜空は星一つ見えない。
ナミは、少なくとも自分が仲間になってから、船内でルフィが特別に鍛錬といった事はしていないように見えた。底知れぬ強さが時々不思議ではあるけれど。
「………負けたんだ、青雉に」
ぽつりとようやく呟いたルフィに、ナミは瞠目した。
確かに先日、青雉という男に対峙して一味は危機に陥った。仲間が凍り付いた姿は、今までで一番戦慄を感じた。
「強くならなきゃいけねぇんだ、もっと」
だって、おれは船長だから。
誰よりも強くなければ、誰も守れない。
誰ひとりだって、失いたくなんかない。
「そりゃ、そうだけど」
口を挟もうとしてナミは、次の言葉をすっかり見失った。
まだまだ、航海は続く。これからもっと強い敵が現れるだろう。
青雉だけではない。
なにしろルフィは海賊王になるんだと言う。そして自分は航海士として仲間に加わった。
海賊王への航路に、倒すべき相手は果たしてどの位居るのか。
「……、無茶だけはしないでよね」
ようやく発したナミの言葉に、ルフィはししし、といつも通りに笑った。
戦闘員でもない航海士のナミは、守られる側だ。
助けてもらう方が多い。
いつもいつも、守ってほしいとは思ってない、けど。
助けて、と言えば当たり前だ、と。
そう言ってくれたから、これからもそう言ってくれるから。
頼りにしてしまう。
「…今日は星、見えねーなー」
「そりゃ、いつも空は快晴なわけじゃないもの」
相槌をついてナミも頭上を仰ぐ。そういえば確か、流星群が見えるはずだったような気がする。
すっかり何も見えない曇天の向こうの夜空では、きっといくつも星が流れているのだろう。
そう思いながら、祈るようにナミは目を閉じた。
突然やってきたウェザリアという空島は、住んでみればそれなりに居心地は良い。自分のタフさには自信があったけど、それでも確実に以前よりも強くなったんだろうなとナミは思う。
覚える事は膨大で、少しの時間も惜しい。
読んでいた本から目を離し、ふと息をつく。
窓の外はいつのまにか夜が更けていた。
ガラス越しの空を見上げれば、さすが高度の高い空島なだけある。
眼前の夜空に広がるのは、まるで銀河そのものと言える程の星々。
今まで見てきたどんな星空なんかとは比べものにならない。地上や海上よりも、断然、宇宙が近い。
(……ああ、あいつにも、見せてあげたい)
もうすぐ此処へ来て、一年と半年が経つ。
仲間が散り散りになり、すぐにどうにかしてシャボンディ諸島に戻るつもりだったのに。
あの時、消される間際。必死で手を伸ばしてナミがルフィに叫んだのは、助けて、という言葉。
その後、新聞で知るニュースに、今度は自分が助ける番だ、などと思ったのに。
寄り添う事もできないなんて。
(ほんと、勝手なんだから)
それでも仲間の為に、なによりもルフィの為にと思って過ごしたウェザリアでの時間は確かに有意義だ。
絶望に落とされたと思った。
しかしまた集まって、きっと再び航海へと出発できる日の為に。
ルフィだけが強くなったって意味が無い。
海賊王の隣に立つに相応しい、航海士になるためならば。
(…だから一緒に、強くならなきゃ、ね)
離れていても繋がっている。それは心も、空も同じで。
きっといつか見せてあげよう、この空を。
見上げた空には、一筋の星が流れた。
静寂に包まれたルスカイナ島の森の中で、ルフィはふと夜空を仰いだ。
修行を付けてくれたレイリーは先日一足先にとシャボンディに帰ってしまった。
残り半年は、一人でまだやるべき事が沢山ある。
そういえば、思えば一人きりになるのは久しぶりだった。
常に誰かと一緒に居た。
島を出て、すぐに仲間が出来て、そして。
「……どこに居るんだろうなー、あいつら」
一人も仲間を救えなかった。大切な兄でさえも。
「……助けて、って言われたのになァ…」
消される瞬間に、涙を浮かべて叫んだナミを思い出す。
あまりに非力で無力な自分を思い知らされた。
草むらにごろりと寝転がり、天に伸ばした手のひらを見つめる。それでも少しは、前に比べれば強くなっただろうか。
もう、今の自分は独りでは無い。
もっと強くなる。どんな壁に阻まれようと、乗り越えていくしかない。
きっと、今度は誰ひとり失わせやしない。拳を固く握り、誓うように夜空を睨む。
「…あ」
丁度良く空を駆けた流れ星に、ルフィは声をあげた。
願い事を唱える暇など無かった。そもそも唱えるべき願い事なんてたいして思い浮かばないのだが。
ただ、その時初めて、寂しいと改めて思った。
そういえば以前、ナミと一緒に空を眺めていた。その時は曇っていて何も見えなかったけれど。
「早く会いてぇなぁー…」
きっとあのナミの事だ、一番に怒るに違いない。いつも我儘に振り回してしまっている。
懐かしさに浸りながらルフィは目を閉じ、すぐに眠りについた。
頭上ではまた幾筋もの流星が流れ落ちた。
(どんなに離れていようとも、一つに繋がっている)
(それはまるで、追い求める最果ての大財宝よりも素晴らしくて、)
end.
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此処までお読み下さり有り難うございます、ルナミ祭主催者の綾瀬です。
ようやく書けたつもりが、これのどこがルナミ?と反感買いそうなくらい低糖度で申し訳ありません…。
兎に角、個人的に今書きたかったものを詰め込んだだけですすいません。
今後もまったり運営していきますので、どうぞ改めて今後とも宜しくお願い致します。
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