メーデー

パチパチと聞き慣れないタイプライターの音が響く。その音が止み、打ったばかりのその紙を飾り気のない封筒に入れ、封蝋をした。

「乾いてから入れないと写りますよ」
「良いんだよ、形だけの物なんだから」

そう言って自分のデスクの引き出しにそれをしまう。一体、その手紙にはどれだけの偽りの愛の言葉が記されているのだろう。曇った顔をした彼の手の指には政略結婚の証、銀色の指輪が輝いていた。

「…本当に良いんですか?」

彼には好きな女性がいた。しかし、それは叶う事のない片思い。思いを伝える事さえ叶わない。彼は自分の気持ちを固く押し込めた。そして、逃げられない自分の運命に従った。

「これは仕事なんだ」

労働と自分に言い聞かせた。その歪んだ瞳はもう戻らない。



end.



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