人間には理性というものが存在する。それを人は人間だけが持つ、長所だというけれど、はたしてそれは本当に長所なのだろうか?私にとって理性など、欠点以外の何モノでもない。人間だって所詮は動物。本能に従って生きる事が、どうしていけない事なのだろう。

「あっ…!」

路地裏の片隅で甘く響く欲混じりの熱を帯びた声。その声に動揺したのか、これ以上声を上げぬよう白髪の男は私の口を手で覆う。行為の真っ最中だというにも関わらず、ここでも煩わしい理性がこの男の脳裏を邪魔しているからだ。雄だということを強調する、起きあがった下半身は本能に忠実だというのに。

「ねぇ、…早くっ…」

誰かに見られてしまうんじゃないかという理性と本能の狭間で彷徨う男とは違い、本能しか持ち合わせていない私の体は既に男を受け入れる準備が整えられている。快感の妨げにしかならないような理性など、さっさと脱ぎ棄ててくれと言わんばかりに、男を煽るよう自身の指で広げた女を見せれば、さっきまでの理性は何処へやら。勢いよく男は自身を私の中へと沈めた。
圧迫されるような感覚と、目の前が真っ白になりそうな程の快感の波が押し寄せる。けれどそこはまだ途中。男が腰を動かせば動かす程、快感はさらに増し、頂へと私を連れていこうとする。何より自ら動く私の体がさらなる快感を得ようとしている。卑猥に響き渡る水音。欲にまみれた吐息。色付いた汗がさらに行為を煽っていく。
そして男が小さな呻き声を上げたと同時くらいだろうか。頭の中が白一色になり、意識を今にも手放してしまいそうな感覚に襲われたのは。まるで自分のものではないかのように小刻みに震えている女の部分。男が自身を引き抜くと同時に、溢れ出した白濁に、この男、なかなか悪くなかったなと、私は大きな満足感を得た。そういえば名前…坂田銀時とか言ってたかな。思考が回らない頭の片隅で、そんな事を思った。


「菜摘、何処行ってた?」
「ちょっと友達と会ってたの」

満足感を得た私が帰宅すれば、一応世間では恋人と呼ぶべきだろう男、晋助がどこか鋭く薄っぺらい笑みを浮かべていた。そんな彼の表情を見て、先程までの白髪男としていた行為に罪悪感を感じるどころか、満たしたばかりの筈の欲が再び溢れ出す私は、一般的に最低な女になるのだろう。けれど私にとって、そんな一般論などどうでもいいこと。だってそうでしょう。私はただ、本能に忠実に生きているだけなのだから。それに…晋助もまた、私と同様、本能のままに生きているのだから。

「ねぇ、…しよう?」

そう言って彼の手を取り、ベットルームへと促せば、他の女の匂いを漂わせているにも関わらず、晋助の眼にも欲情の色が浮かびあがる。だけどそれは同時に嫉妬という名の欲を煽る材料でもあり、きっと更なる快感の高みへと私を連れて行ってくれるのだろう。私には煩わしい理性など必要ない。ただ、この快感が得られればそれだけで幸せなのだから。




(そうして私は何処へ辿り着くのだろう)


2009
色々すみません。
title/nichola