初夏の匂いが漂う、とある晴れた日のこと。休日でもないというのに365日人が絶えないのは、この場所が有名な観光スポットだから。ましてや今の時期、片田舎からの修学旅行生が多く、人混みを掻き分けながら進まなければならない。そんな状況にうんざりしながらも、観光客に紛れて団子屋を探し求めていた俺に災難が降り懸かる。観光客達によって、あれほど食べたかった団子が売り切れになっていたのだ。
何でなんだ、と内心かなり落ち込んでいたけど、『食べたものを出して』なんて団子を食べた観光客に言えるはずもなく、ましてや出されたところで一度他人の胃袋に収納されたものを食べることも出来ない。『どうにかして団子を作ってくれ』なんて無茶ぶる客になれるはずもなく、『じゃあ、ジェラート下さい』と言うことしか出来なかった俺は、今日世界一可哀相な人間だと思う。
世界一なんて言い過ぎだ、そう思う人も多いかもしれないけど、何も俺はそれだけで世界一だと言っているわけじゃない。悲劇は更に続いたんだ。仕方なく頼んだジェラートの中に、甘い薫りに誘われた小蝿が体ごとダイブし、そのままジェラートの中で溺死。もちろん、そのまま小蝿を胃に収納出来るほど心が広くない俺は、渋々ジェラートに別れを告げた。

「俺ってどう考えても今日厄日ですよね?何で俺のジェラートにだけ小蝿が入るんですか?」
「山崎の普段の行いが悪いからじゃねェですかィ」
「小蝿だけ取り除けば良かったのに」

今日、この場所に同行していた沖田隊長と菜摘にそう尋ねれば、沖田隊長は冷たく俺をあしらい、菜摘に至っては、今更な返事を返してくれた。所詮人なんてこんなものだ。他人の事はどうだっていいのだ。

「厄日なのは今日だけじゃねーだろ?まぁ、俺も同じだけどねィ」

ふと沖田隊長の言葉に耳を貸す。確かに、俺と沖田隊長の近頃の状況ときたらロクなものではない。俺は二日前に、沖田隊長は三日前に女に振られ、おまけに『やっぱり彼氏が真選組っていうのは…ちゃんとした職に就かなきゃダメでしょ』という痛い言葉まで振られた時に付け足されたのだ。真選組はちゃんとした職業のはず…なのに。
それにトドメを刺すように数日前、副長に任務に失敗した事についてコテンパにしぼられ、副長の機嫌は今だ頗る悪い。このままだと厄日というより、厄月、最悪厄年になってしまう。

「確かに。今のこの状況は辛いね。任務失敗しちゃったうえに、女の子に振られちゃったんでしょ?」
「…うん。そうなんだけどさ、菜摘。もう少しオブラートに包んで言おうよ!直球すぎるよ!…何か俺もう…川に沈みたい気分になってきたんだけど…」

そう言って、目の前を流れる川を見つめる俺に、『なら、沈めてやるでさァ』と、沖田隊長に頭を捕まれ、慌てて振り払った。沖田隊長なんかに沈められた日には二度と朝日が拝めない。

「いやいやいやいや、世の中もっと悲惨な人はいるからね?それでも前向きに生きてる人はいるからね?」

必死にフォローを入れる菜摘。いやだから、俺は今日世界一可哀相なんだって!前向きになんかなれないんだって!

「けど、ホント終わってらァ。俺達。女も仕事もないし」
「仕事はあるじゃないですかぁぁぁあ!!あんたがサボってるだけだよ!!」
「まぁまぁ、二人とも元気出して!」
「いいね、菜摘は。恋人も仕事もあるし」
「そうでさァ。どっちか寄越しやがれ」

唯一、恋人もいて仕事も上手くいっている菜摘に八つ当たり以外の何ものでもない言葉を浴びせる俺と沖田隊長。菜摘は少し困ったような顔をしたけれど、すぐに何かいいことを思いついたような表情になる。

「聞いて!二人とも!ちょっとは元気が出るニュースだよ!実は私、もうすぐしたら万事屋に引っ越して銀ちゃんと一緒に住むの!」

その言葉に、目を見開いたのは俺だけじゃない。沖田隊長もだ。菜摘は元気づけようと言った言葉なのかもしれないけど、ぶっちゃけそんなコトで元気になれるのは菜摘くらいだろう。むしろ今の俺と沖田隊長には逆効果。彼氏の家に引っ越す、なんて話なんだから。あれ?何だっけ?こういうの。今流行りのKYって言うんだっけ?空気読めないの略。

「あれ?二人とも元気出ないの?」
「出るか!」

実のところ、俺はもちろん、多分沖田隊長も女に振られた理由に菜摘が少なからず絡んでいる。でも当の本人は彼氏に盲目で…。菜摘を此処まで盲目にさせた万事屋の旦那が正直、羨ましくて仕方ない。確かに旦那は時々男らしいんだけど、死んだ魚の目をしたような男だよ?ダメな大人のお手本みたいな人だよ?それに、少し位、俺らの気持ちも理解しようよ菜摘…。

「菜摘、少しは俺達の気持ちを察してよ」
「ん?どういう意味?」

『はぁ』という俺と沖田隊長の盛大な溜息が美しい景色の中に響く中、全く空気の読めない菜摘は何を勘違いしたのか、それから永遠と万事屋の旦那との惚気話を語り出す始末。何が悲しくて好きな女の子の惚気話を聞かなきゃならないのか…。沖田隊長も目が虚ろになってきてるんだけど。それでも菜摘を嫌いになれない俺も沖田隊長もやっぱり厄年なんだろうか?




(他人の幸せニュースより、合コン日時を教えてくれ!!)



2009
物凄くしょうもない話を書いてみたかっただけ。
title/nichola