病に蝕まれ、余命幾ばもないという事は、出会って間もなく知った。それでも、側を離れる事が出来なかった。この先に明るい未来、どころか未来そのものすらない事など百も承知だ。だけど私は知っていた。彼は決して話してはくれなかったけれど、病に伏せて終わりを迎えるつもりがない事を。この人が待ち望んでいる終わり方を。

「オレはもう行く。お前も早く此処を去れ」
「…」
「…最初に言った筈だ。オレは誰かと共に生きる事は出来ないと」
「…うん、確かに聞いたよ」
「なら早く行け」
「でも、私も言ったよね?貴方とずっと一緒にいるって。貴方と生きるって」

冷たい仕草を見せるわりには、此処ぞという所で全てを捨て切れない。それは、この人が本当は誰よりも優しい人だから。今だって、自分の事なんかよりも、きっと私の心配をしているに違いない。此処に居れば、巻き込まれる可能性が高い。危ないから何処かに行け、本心ではきっとそう言っている。そんな人だからこそ惹かれたのだけど。
彼の言葉に従い、此処に居るつもりは無い。これは彼が望んだ最期だ。だけど名残惜しいのが現実。それに、旅立つ彼にどうしても伝えたい事がある。

「一緒に終わりを迎える事は出来ないけど、私はあの世でイタチを待ってるから」
「…何を」
「私はイタチに出逢って恋をして、本当に幸せだった。頷いてはくれなかったけど、貴方と共に生きるって決めたの。だから自分の人生の終わりくらい、自分で選ばせてよ」

こうと決めたら絶対に貫き通す私の性格はイタチも知ってるでしょ?そう言って微笑めば、ほんの一瞬、彼は眉間に皺を寄せた。きっと私の言葉に心を痛めたのだろう。だけど、次の瞬間にはそっと私の体を引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。

「…馬鹿な女だ。だが、すぐに行く」
「うん。待ってるから」

愛する人の腕の中で交わした、この世での最期の言葉。それ以上の言葉は、あの世で交わそう。


(だから、死ぬ時も共に)


120417
企画サイトLove!様へ提出。
素敵なタイトルにも関わらずポエムか!ってくらい短く、おまけに何だか色々申し訳ないイタチさんでした。