忠義を尽くす事に生きる意味を持つあの人と、生きる為に裏切りを積み重ねる私。そんな私達が、どう足掻いたって相容れぬ関係なのは明白だった。

「まさか、あんたが長州の浪士と繋がっていたとはな」
「…ずっと、ただの茶屋で働く女だと思ってくれていたら良かったのに」

裏では長州を手引きし、匿い、表はただの茶屋。そんな場所で働く私が、彼の素性、即ち新選組の三番組組長、斎藤一だと知ったのは、出会って間もない頃だった。淡麗な顔立ちに、一目で引き込まれそうになりながらも、警戒心を忘れず接していたつもりだった。それでも自身の立場も弁えず惹かれてしまったのは、「こんなご時世だから」と、怯えて私が捨て置いたものを、力強く持ち続ける彼が、羨ましかったからなのかもしれない。私は彼の素性を知っている。けれど彼は私や店の素性を知らない。いつ知れるやもしれない状況だというにも関わらず、堕ちる様に彼との接点を持ち続け、恋慕という深みに嵌っていったのは、素性が知られる事はないと、何処かでたかをくくっていたからだろう。

「…やっぱり、私を捕縛するの?」
「無論、そのつもりだ」
「嫌だ、って言ったら?」
「…力尽く、になるだろうな」
「そう」
「あんたに聞きたい事がある」
「何?」
「…長州の者ではないにも関わらず、何故接点を持った」
「生きる為。…こんなご時世だから、親もいない、そこいらの小娘が茶屋で働くにも色々込み入った事情は知っておかないと、雇ってももらえない」
「全ての茶屋がこんな処ばかりではないだろう」
「…」
「それからもう一つ。…俺が新選組の者だと知っていたのか」
「ええ」

肯定したその言葉に、彼は目を細めた。ならば、何故自分に近付いたのだ、とでも言いたそうな、そんな表情を浮かべて。

「…遠慮はいらないから」
「…」

そう言えば、彼は無言で左手を刀に添える。きっとわかっている。私が大人しく捕まらない事くらい。私が何を望んでいるかという事くらい。彼の顔は無表情ながらも、心なしか少し曇っている様に見える。少しは心を痛めてくれているのだろうか。そう思うと口元から笑みが零れ落ちる。これは私が望んだ事。彼が心を痛める必要などないというのに。

決して相容れぬ関係だった。こうなる事は初めからわかっていた。だから、



(優しい切先が、体を伝う感触がした)



120413 何か色々すまません。
Title/カカリア