あのデンジャラスな不良にまさかのファーストキスを奪われてから3日。あのまま屋上から逃げるように教室へと戻った私を待っていたのは、先生からの尋問だった。どうして急に教室を飛び出していったのか、何処に行ってたのか、何をしてたのか、今がどういう時期かわかっているのか、エトセトラ。まさか現実に嫌気がさして、憂さ晴らしに屋上で叫んでたら、Z組の高杉晋助という不良にファーストキスを奪われました。なんて馬鹿正直に答えられる訳もなく、そこは適当に誤魔化した。でも、屋上で一瞬でも忘れられた現実に戻ってきたんだと思うと、やっぱりうんざりした。溜息を吐きながらも、今日も今までと変わらず、退屈な授業を終えて、塾へと向かうために下校しようと靴を履き替えていた、その時だった。

「よォ」
「…Z組の靴箱はむこうですが?」

目の前に現れ、気軽に話しかけてきたのは、今1番会いたくない人物NO.1。乙女の純潔…なんて大層なものじゃないけど、とにかく世間で言うそれを奪った不良、高杉晋助だ。あれ以降、顔を合わせる事なんて無かったのに、なぜ奴がこんなところにいるのか。不快な視線をぶつける私なんて嘲笑うかのように、高杉は相変わらず不敵な笑みを浮かべている。

「欲求不満は解消できたのかよ?」
「だから、欲求不満じゃないですし、仮に欲求不満だったとしてもあなたに解消してもらう必要はないんで、私に付きまとわないでください」

そう言って、高杉の横を通り過ぎようとした、のが不味かった。私の腕は、細いくせに男らしく角張った高杉の手に捉えられてしまったから。


「離してください。私、急いでるんです」
「勉強でもするためか?」
「そうです」
「さすが、神崎菜摘だなァ。成績優秀だって聞いてるぜ?」
「…私の事知ってたんですか。じゃあ尚更離して下さい」
「まぁ、聞け。そんな成績優秀な奴が屋上で叫んでるなんざ、よっぽど不満だらけなんじゃねぇのか?お前ェ、今の自分や周りに満足してねーんだろ」
「…だとして、それと貴方と何の関係が?」
「関係なんてねェぜ。あるとしたら、安眠妨害された事ぐらいか」
「…それは謝ったじゃないですか。はっきり言ったらどうなんです?安眠妨害した責任取れって」
「ククッ、頭が良い奴ァ説明が楽で助かる。けどなァ、これはあくまでお前の欲求を解消してやろうかって話だ」

これはまさに脅迫以外の何物でもない。だから不良は嫌いなんだ。おまけに、あくまでも自分は強要してないとか何とか言って、責任逃れをしようとする高杉のやり方は特に。それでも、こんな男にずっと付きまとわれるよりはマシかもしれない。まったく、どいつもこいつも本当に嫌になる。何で私がこんな目に合わなけりゃいけないのか。

「で、私はどうすれば?」
「家に来いよ」
「…それ強姦ですよ?」
「同意の上だろ?」

そう言って、口角を上げた高杉に深い溜め息が出る。つまらない男だ。この男も、結局その辺に転がってる男と何ら変わりない。まぁ、期待はしていなかったけど。私には恋愛経験なんてない。別に興味もなかったから。もちろん男性経験だって。だけどいくら興味がないとは言っても、それをこの男に奪われるのかと思うと、嫌気の1つもさす。でもまぁ、恋なんてものは私はよく知らないし、そもそも私なんかが今後の人生において恋なんてが出来る気がしないと、どこか冷え切った目で見てしまう私は、どうせいつか高杉のようなつまらない男に奪われるものなら、今ここで高杉に奪われるのも同じかもしれない、何て思ってしまう。何よりこれ以上付きまとわれるのも迷惑な話だし。そんな考え自体がもう現実にうんざりしていた末期症状だったのかも。

「一つだけ聞きたいんですけど。どうして私なの?あんたなら、わざわざ私みたいな女じゃなくても自分から寄ってくる女はいくらでもいるでしょ?」
「…お前と同じで俺も欲求不満でなァ。そこらの女じゃ俺の欲求は解消できねェ。だが、お前みたいな女なら解消できるんじゃねぇかと思っただけだ」
「あんたの欲求不満と私の欲求不満な理由は全然違うと思うんだけど?しかも似てないし」
「いや、同じだ」
「…意味がわからないんだけど」
「俺もお前と同じで今の自分に満足してねェって事だ。まぁ、少なくともお前の欲求は多少なり解消される事は確かだぜ」
「…すっごい自信。余計ストレス溜まりそうなんだけど」
「ククッ、ある意味では、余計に欲求不満になるかもなァ?」
「…馬鹿じゃない」

その日の私は心底現実に嫌気がさしていて、もうどうでも良くなってしまってたのか。それとも、この現実から解放される何かを期待したのか。



3日前に知り合ったばかりの男とベッドを共にするなんて。