あいつが「里を抜けた」そう聞いた時、思った事は「やっぱり」。口を開けば「芸術芸術」。傍にいると煩くて仕方のない奴だった。鬱陶しいなんて生易しいもんじゃない。その口を二度ときけなくしてやろうかと思う程苛々する奴だった。それから変わり者だった。こんな里に生涯居座っている筈がないだろうと予想していた私の勘は、やっぱり的中したのだ。だって芸術のために禁術を渇望していた事も知っていたし、何よりいくら爆破部隊の粘土造形師として絶賛されていたとて「芸術は爆発だ」なんて恥ずかしげもなく言ってしまう奴の本当の理解者なんて、里の中にいる筈がない。

「おい菜摘!オイラの話聞いてんのか?!」
「あー煩い」
「てめぇ、ぶっ殺す!うん」

そんな会話を幾度繰り返しただろう。その度に大喧嘩になって、里の人達に止められて怒られて。それでもまた同じ事を繰り返す。周りに言わせれば犬猿の仲。確かに先にも言った通り、本当に苛々する奴だけど良き喧嘩友達だと私は思っていた。だって嫌なところなんて山ほどあるけど、同じくらい良いところもあったから。あいつの鬱陶しいくらいの芸術への思いは純粋故に。煩い上に生意気な態度を取るのも理解者欲しさ故に。単細胞な癖に頭が回るところも。全て私の勝手な見解だけど。

一度だけ後ろから思い切り抱きしめられて、「菜摘はオイラをどう思ってる?」なんて聞かれた事があった。その時の声は微かながらに震えていて、私の言葉を聞くより先に、手を離して去って行ってしまった。それは里を抜ける数日前の事。あれは別れの言葉のつもりだったのだろうか?と、抜け忍となったあいつの事ばかり考えていた。そしてあいつが里を抜けてしばらく経った頃、当たり前のようにあった筈の者が失くなった痛みを知った。もう「芸術芸術」と馬鹿みたいに話す声が聞こえない。「ぶっ殺す!」という怒声も聞こえない。それなのに、たった一度しか感じた事のない背中の温もりは消えてくれない。…ああ、そうか。私にとってあいつは、良き喧嘩友達なんかじゃなかったんだ。居なくなって初めて気付くなんてよく言うけど、まさにその通りで、自分があいつより馬鹿なんだと気付いたら、余計に悲しくなって涙が零れた。

私にはあいつの芸術は確かに理解出来ないし、あいつが今を何処でどう過ごしているのかなんて知らない。どうして私の言葉を聞かずに出て行ってしまったのかもわからない。あいつが私の事をどう思っていたかも知らない。何もかもわからない事だらけだ。それでも、今になってあいつが好きなんだと気付いた。そんな私に、何故里を抜ける事を言ってくれなかったのか、なんて怒る資格も悲しむ資格もない。だけど、一緒に連れて行って欲しかったなんて贅沢言わないから、



「ねぇ、せめて無事でいて。お願いだから「儚く散りゆく一瞬の美」にはならないで、デイダラ」



120402
一応幼馴染的な設定。
Title/彼女の為に泣いた