気付けば、当たり前のように傍にいた。当たり前のようにキスをして、当たり前のように抱き合っていた。何時からだとか、どうしてだとか、そんなことは覚えてもいないし、考えたこともない。人は所詮本能が赴くままに生きる動物だ。動物が本能的に子孫を成そうとすることや、群れを成すことと同じ。好きだからとか、愛してるからだとか、そんな精神論は、口ではいくらでも言える。だけど、そんなものは何の役にも立ちやしない。それが私の持論であり、「誰でも良かった。たまたま貴方だっただけ」それが彼と過ごした時間への、私の答えだ。
そして、何時の間にか傍にいたように、何時の間にか離れていき、死という生き物としての終わりを迎えるその時まで新しく出逢う誰かとまた同じことを繰り返していくのだろう。今までと同じように。

「何を考えている?」
「別に何も」
「相変わらず、素っ気ない答えだな」
「…」
「しばらく戻らない」
「そう。戻る予定はあるの?」
「いや」
「…荷物を纏めておくわ」
「ああ」

昼下がり。曇天の空を映す窓に目をやる私に、彼は床に散らばった衣類を広いあげながらそう言った。それは、何の名前も持ち合わせていない、この繋がりに終止符を打つもの。今まで生きてきた時間の中で幾度か経験してきたことだ。重い身体を起き上がらせることが出来ず、今だベットに身を預けたまま、手際良く着替えていく彼に視線を移せば、目が合った。

「雨でも降るんじゃない?」
「何故そう思う?」
「イタチが優しい顔してるように見える」
「…そうか」

着替え終えた彼は、口角を少し上げ、目を伏せながらそう言うと、私に一歩近付いた。そして、額にキスを一つ落とし、振り返ることもせず出て行った。残された私の耳に聞こえるのは、扉が閉まる音だけ。
彼と過ごした時間は、たったの二年程度。普段から無表情で、いつも張り詰めた空気を纏い、あまり人を近寄らせない人だった。笑うこともなく、怒ることもなく、ましてやあんなに穏やかな表情を見せることなど無かった。私は、彼のことなど何も知らないに等しい。知っているのは、名前と身体くらい。
この場所を離れれば、いつものようにまた違う誰かと何時の間にか一緒にいて、同じことを繰り返していくはずなのに、今日に限って身体が重たくて仕方ない。
それはきっと、あの人の穏やかな表情があまりにも綺麗だったからに違いない。彼がこの部屋を出てどのくらい経った頃か、振り出した雨を見つめながら、今だシーツに包まる自分にそう言い聞かせていた。



(頬を伝う涙も、痛む胸も、全てはただの気のせい)


110920
イタチさんがサスケくんと戦う直前の妄想をしてみました。