保健室といえば、多くの人の頭の中にはサボリという三文字が浮かぶだろう。だけど私は少し違う。保健室といえばラブ。愛、愛、愛の三文字。なんと言っても、うちの学校にいるのは年増のオバサン保険医でも、胡散臭いオジサン保険医でもない。イケメン保険医なんだから。イケメン嫌いな女子なんて、きっとこの世には存在しない。あくまで私談だけど。とにかく、だ。イケメン保険医ラブという言葉をモットーに、私は今日も保健室へと向かう。

「てめぇ、いい加減にしろや。堂々と授業サボって来てんじゃねェ」
「高杉先生!相変わらず今日も男前ですね!早く鍵を開けて下さい」
「…お前が授業に戻ったらな」
「そんな事言わないで、開けて下さい。私、さっき転んでケガしたんです」
「唾でも付けとけ」
「嫌です。汚い。あ!先生の唾を」
「…黙れ」
「ちぇ。とにかく此処を開けてください。私が入れないじゃないですか」
「お前を入れねェように鍵かけてんだ。開けるわけねェ。んな事より、さっさと授業に戻りやがれ」
「…わかりました。じゃあもうマスターキーで開けるからいいです」
「…何で持ってんだ」

そう言って、マスターキーで保健室の扉をこじ開けた私に、今日も変わらずイケメン保健医やってる高杉先生は、呆れた表情を浮かべていた。良かった、こんな事もあろうかとマスターキー持ってて。銀八先生のパフェ代は半端じゃなかったけど、その甲斐があったよ。っとまぁ、私と先生はいつもこんな感じだ。うん、言われなくても相手にされてないのはわかってる。ウザがられてるのもわかってる。わかってますとも!それでも、好きなものは好きなんだから、仕方ないじゃないか。第一、悪いのは私をここまで惚れ込ませた高杉先生だ。イケメンって本当に罪です。

「で、高杉先生。いつになったらデートしてくれるんですか?」
「俺がいつお前と約束したんだ」
「C組の子とはしたらしいじゃないですか」
「…覚えがねぇなァ」
「惚けたって無駄です。目撃者がいるんです」

捕捉だけど、このイケメン保健医の高杉先生は、実は生徒に手を出しまくってるって噂のプレイボーイだったりもする。服部先生あたりが同じ事してたら、セクハラ扱いとかで終わったんだろうけど、このイケメン保健医に限っては別。セクハラどころか、自ら志願する女子生徒が後を絶たないほど、黙認されていたりする。そして私も自ら立候補してる一人だったりしちゃう。

「俺ァ、お前みてェなガキは相手にしねェ主義だ」
「私ガキじゃないです。もう大人です。お印だって…」
「…追い出されてェのか」
「滅相もございません」

私だって立派ってわけじゃないけど、大人のつもりなのに。どうして毎回毎回私は断られるんだろう。先生は来る者拒まずってみんな言ってるのに。毎回毎回「お前が卒業出来たら考えてやらァ」って台詞であしらわれる。それも、私だけ。多分今日だって。

「ねぇ先生、」
「チャイム鳴ってるぜ。次の授業は出ろよ」
「それは先生がデートしてくれたら…」
「お前が卒業出来たら考えてやらァ」

ほら。やっぱりね。だけど、実は私はそんな先生の言葉が嫌じゃなかったりする。だって先生は私だけにしか、その言葉を吐かないから。もしかしたら、本当に私の事がウザくて言ってるだけかもしれないけど。それでも、決まってそう言う時の先生の表情は、何処か優しい。だから、私はしつこく先生を追いかけ回してしまう。そんな先生が好きだから。




(卒業したら、絶対だからね!)
(あァ、卒業出来たらな)



100807…企画サイト白衣の王子様!へ提出。