「ねぇ武!一体何処まで行くつもりなの?」
「行けばわかるから」

もうじき日付が変わろうとしている時間帯にも関わらず、私は恋人である山本武に強制的に拉致られ、車に乗せられた。おまけに何処だからわからない山道を走ってるし。この男の意味不明な行動は今に始まった事じゃないんだけど、さすがにこんな時間にこんな場所へと連れてこられたんじゃ不安にもなる。
約30分程前。突然携帯に電話をしてきた彼に告げられた言葉は『5分後に家の前に居て』だった。おまけに言いたい事だけ言うと、電話を切った武。寝床につこうとしていた私は、『ふざけんな!!』と心の中で叫んでいたものの、何だかんだで彼に甘い私は律義に武の言う事を聞いてしまい、結局、パジャマのまま自宅前で待っていた。
ところが、そんな私の格好になんかお構いなしの武は、来たと同時に、車に無理やり私を連れ込み、行き先も告げずに車を発進させた。何考えてるのか時々よくわからない時はあるけど、ちょっと位私の格好に気使ってよ!このままファミレスとか公共の場に連れ込まれたらたまったもんじゃないし、凄く帰りたいんですけど。そんな事を考えていたけど、私の思いとは真逆に、車は街からどんどん離れていく。夜に通る山道はそれはそれは不気味なもので、さっきとは別の意味で帰りたくなってきたんですけど。山本さん?一体私を何処に連れていく気なんですか?


「降りて」

あれからどれ位の時間が経ったのだろう。相変わらず辺りは暗く、山のど真ん中だというのに武は車を止めた。

「降りてって…山の中なんですけど…暗いんですけど…」
「此処からは歩くから」
「歩く!!?…こんな山の中を?」
「もしかして…菜摘…怖いのか?」

武は口角を上げ挑戦的に、いや馬鹿にしたように、私に問いかける。それはそれは、ぶん殴ってやりたいくらいに腹がたつ表情で。

「怖いに決まってるでしょうが!!こんな山の中!!」

武の言葉に頭にきたものの、辺りを見回せば街灯の1つもなく妙な鳴き声が聞こえたため、苛立ちながら素直に怖いと認めた。それが可笑しかったのか、武はゲラゲラと笑い出す始末。殴っていいですか?そう思った瞬間、武は、そっと優しく手を差し延べながら笑顔を浮かべ、『俺がいるから大丈夫。行こう』と言った。あぁ、もう私はバカです。武のこういうところに弱いんです。結局、差し伸べられた手を取り、真っ暗な山の中へとパジャマのまま、降り立った。
それからしばらく、ビクビクしながら山の中を歩き続けると、少し開けた場所に辿り着いた。

「着いたぜ」
「此処?」
「ああ」

確かに他の場所とは違い、この場所は木が少なく視界は良好。だけどただそれだけ。他に何かある訳ではない。

「此処が何なの?」
「よく見ろよ」

またニコニコ笑いながら言う武に、少しドキドキ少し苛々しながらも、もう一度辺りを見渡すものの、やはり特には何もない。

「菜摘、上だ」

私が首をかしげながら辺りをキョロキョロとしていれば、武がそう言った。そして、その言葉通り上を見上げる。

「わぁ!!」

すると其処には空を流れる、山ほどの星が。時々見る流れ星なんか比にならないほどの流れ星の量。

「今日は数年に一度の流星群の夜らしいから」
「武…まさかこれを見せるために此処に?」
「ああ…菜摘と見たかったんだ」

少しも照れずにそう言った武に、こっちが恥ずかしくなる。あーもう!こういうとこ、何とかなんないかな!と思うけど、嬉しいものはやっぱり嬉しくて…

「…ありがとう、武」
「ああ。また二人で見に来ような!」

少しも顔を赤らめずにさらっと言った彼を見て、愛おしいと思ってしまう私は相当重症みたいだ。
もしも、今この空を流れるたくさんの星の一つが私の願いを拾ってくれるなら。

「また、武と一緒に流星群を見に来れますように」
「?」

武に聞こえないようそっと夜空を流れる星に小さな声で願いをかけた。




(繋いだ手を離さないように)


2009
10年後のつもり。山本じゃない山本です。
title/Aコース