リオン




まだ付き合う前の話。








「ふみゅ〜」
「はぁ…」


愚痴を聞いてくれと連絡をもらい、指定された店に赴いて話を聞く。いつも通りだ。そして酔い潰れた後の介抱もいつも通りな訳で。
酒が飲める歳になった現在、前より面倒が増えたのは確かであった。


「ん〜……」
「しっかり歩け」


酔って千鳥足になっているルナの体を支えるリオン。
それが楽なのか、更に甘えるようにしがみつくルナは何がおかしいのかヘラヘラと笑っている。


「(う…)」


酔っているとは言え、赤らんだ顔で屈託の無い笑みを向けられると惚れた弱みからか胸に響くものを感じる。
それと同時に思うは全く警戒されていない、所詮自分は安全圏にいる男だと思われているという事。複雑な想いが彼の中で絡む。
このまま連れ出す事が出来るというのに、この警戒心の無さ。


「少しは警戒しろ」
「みゅ、」


自分の中で崩れゆく何かを止めようと、原因である笑顔をなくすべく赤い頬を抓る。
思ってた以上に柔らかい頬の感触に思わず必要以上にぐにぐにと弄る。その度になんとも言えない妙な鳴き声のような声が漏れ出てくる。


「み゛ゅ〜……。…警、戒?」
「そうだ」
「…何を?」


ガク、と肩を落とす。
ある程度経験積んでるいい歳した女なのだからそういうのはわかるだろうに何も理解していない。自分も歴とした男だというのに。


「襲われたらどうする」
「大丈夫だよぉ、リオンがいるもん」
「だから、」


その僕を警戒しろと自分で言うのはなんだか虚しくなり途中で途切れた。
ルナは途中で切れたリオンの言葉を気にする事なく相変わらず彼に寄りかかりながら歩を進めた。










「ルナ、鍵」
「………」


あれから電車に揺られ最寄り駅まで着いたはいいが、歩く気力なくしたのか座り込んで動かなくなってしまった彼女を背負ってなんとか漸く自宅まで辿り着けた。
鍵を出すよう要求しても何も答えが返ってこない。代わりに寝息のような音がリオンの耳を掠めた。
途中で重くなったと思っていたが本当に寝られるとは。何度目かわからない溜め息を零し、気が引けるがそう言ってる状況にあらず肩にかけたルナの鞄の中を漁る。小物を入れる小さなポケットから目的の鍵を取り出すと手馴れた様子で鍵を回しドアを開いた。


「ほら、着いたぞ」


靴を脱がせる為一旦床に下ろし、軽く揺すって声をかけるが相変わらず反応は無い。
わかりきっていてもはや諦めたリオンはそれ以上無理に起こそうとはせずに自分の靴を脱ぎ、ルナの靴も脱がせて今度は横抱きにして彼女の寝室兼居間に向かう。

片隅にある小さめのベッドに横たわらせ、漸く開放された事に息吐いて時計を見ればもうここを出なければ終電に間に合わない時間となっていた。
なんとか無事に送り届けた事だしこの辺りでお暇するかと立ち上がればルナまでのっそりとゆっくり起き上がる。


「………」
「起きたのか」
「…ここどこ」
「安心しろ、お前の家だ」
「………」


ゆったりと首を揺らしながら辺りを見回すルナ。自分の部屋かどうかわからないほど酔い潰れている様子に流石に少し心配になるリオン。
そんな心配を余所にルナはベッドから降りようと床に足つき立ち上がろうとするが瞬間バランスを崩し慌ててリオンが受け止める。


「おい、何処に行く気だ。危ないから寝てろ」
「んー…、水…」
「わかった、持ってくるから」


だから大人しくしてろと言わんばかりに支えた身体をそっと再びベッドに下ろし、台所に向かう。
棚からグラスを取り出し、ウォーターサーバーから水を汲み取り居間へ戻る。
ルナはさっきと変わらない体勢でこくりこくりと首が今にも落ちそうに揺れている。そんなルナの眼前に水の入ったグラスを突き付ける。


「ありがと…」


受け取ろうとするも上手く力が入らないのかこっちが手を離せば落としそうで危なっかしいので結局手伝う事に。
ゆっくり少しずつ傾け口の中に流し込めばコクコクと飲んでいく。


「(もう間に合わない…)」


介抱してるうちに終電を逃してしまったがそれに嫌な気を起こす訳でもなく介抱を続ける。
別にこれが初めてではない。酒を飲めるようになって調子付いて酔い潰れるまで飲むのは多々あり、その度に家まで送るものの大抵は終電を逃している。
無事家まで送ったのだから放っておいてもいいのだがそこは惚れた弱み、どうしても心配でさっきみたいにふらついて転んで怪我する一歩手前を見ると帰るに帰れなかった。なのでそのまま彼女の家に泊まるのもしばしば。
とは言え、後ろめたさが無いと言えば嘘になる。酔い潰れた女が無防備にいられるのはかなりキツい。自分も多少酒入ってるので尚更。しかしそこは堪えて堪え続けてなんとか今まで間違いを犯していないし、耐性も付いてきた。
ふぅ、と息つき無防備に眠る彼女に手を伸ばし髪を梳くように撫でる。


「よく寝れるな…」


朝になり起きれば化粧落としてないだの外着のままで寝てしまっただの騒ぐんだろうなと嘲笑じみた笑いが込み上がる。毎回そうだから鮮明に思い浮かぶ。
化粧なんてしなくても肌綺麗なのにと思っても如何せん自分は男の身。女性には女性の事情があるのだと理解出来ないにしても納得させる。
撫でてる手を滑らすように頬に持っていく。化粧の上からでもわかる滑らかさを心地好く思いながら軽く弄っても微動だにしないルナに下心が沸き起こる。


「自己防衛も出来ない癖に…」


いとも簡単に誘導出来、挙句に背負われて家まで運ばれる始末。それはつまりリオンでなくて他の誰でも簡単に攫う事が出来てしまう。
だから一人呑みなんて絶対にさせないし男同伴なんて以ての外。会社の飲み会では己自身の体裁もあってかそこまで飲んでないのが幸い。


「…僕だって」


男なんだから。












「……っ」


頬に手を添えたまま顔を近付けば香ってきたアルコール臭によって我に返り即座に離れる。
心臓がバクバクと痛いくらい鳴り妙な汗が額から滲み出る。柄にもなく冷静でいられない自分に戸惑いを隠せない。
嗚呼そうだ、自分もアルコールを飲んでる。きっと抑えられなかったのは全てとは言わなくてもそれの所為だ。今まで抑えに抑えてきたのにここで台無しにしてしまったら…。
―早く寝てしまおう。
出て行く事も考えたが、自宅はこの家からかなり離れており終電は逃した。タクシー使おうにも手持ちは先程の居酒屋でほとんど消えている。大体こんな寒空の下アルコール入った状態で歩いて帰るなんて自殺行為に等しい。つまり今回もこの家で寝泊まりするしかないのだ。


「くそ…っ」


腹癒せにすやすや穏やかに眠ってる顔にデコピンを食らわす。一瞬ビクッと反応したがすぐまた寝息が聞こえる。
それに溜め息吐く事もなく床に転がり、前にルナが用意してくれた掛け布団と毛布を引っ張り出して自分に被せる。(敷布団もあるが敷くのが面倒臭い)
ドキドキを通り越してバクバク煩い心臓が静まるまで眠れずにいるリオンなのであった。






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