19.寂しがる




男と女の思考は全く違うっていうのは理解しているよ。理解はしているのよ、大事な事だから2回言う。でもね、理解出来ると受け入れるのは全く別物なんだよわかってる?ウザイ女だと思われたり嫌われるのが嫌だからニコニコ笑って過ごしてるけどさ不満が無いなんて事無いじゃんか。はいはい、どうせ嫌われるのを恐れて八方美人ばりに良い顔してしまう私だって悪いですよーだっ。…言ったって仕方ないもん…。嫌われないとしても言ったところで何も変わらないなんて目に見えているわよ。それくらい知ってる。だから余計不満が募ってくるんじゃない。正に天職とも呼んでもいいぐらいの仕事っぷりを見せつけられたら私の我儘なんて言える訳無い…。わかってるのに、頭では理解しているのにどうしても納得出来ない…。少しくらい傍にいてくれたって、一緒に過ごしてくれたっていいじゃない。言わなきゃわからないとかこれだから男は…。言えたらこんなグチグチ吐いてないわよ。察して欲しいぐらいの気持ちがあるんだからこっちは。アンタみたいな男もあの人も一生わからないんでしょうけど。気を付けなよ?女はすぐ不貞腐れるんだから。放ったらかしにしてたら何しでかすかわかったもんじゃないんだからね。…あ、アンタ相手いないんだった。まぁいいや。兎に角要は寂しいんですよ私ゃ。




「だからと言ってそこまで飲む必要もないだろ」
「飲まなやってられん。おばちゃん、ビールもう一杯」
「アンタそれくらいにしときな」


空になったジョッキを突き付けながら注文するとジョッキは下げられたが注文は却下されてしまった。なんでよ、お金ならあるのに。


「…フレン今頃何してるかなー」
「さぁな」
「何その返し。アンタら気持ち悪いくらい意思疎通出来てるんだからテレパシーとか出来ないの」
「普通に考えて出来る訳ないだろ。仮に出来たところで常に説教されるのが目に浮かんで嫌だ」


あー確かに。安易に想像出来る。
私だったら別にいいかも。煩く感じるかもだけど放ったらかされるよりかは全然そっちの方がいい。


「何笑ってんだよ気持ち悪ぃ」
「酷いなぁ女の子に向かって」
「今のお前見たら流石のフレンでもドン引くぞ」
「…気を付ける」


それだけは嫌だ。フレンの前では少しでも可愛く上品な女性でいたい。いやまぁフレンも昔から知ったる仲だから今更ではあるけど。
不思議だよねぇ。ユーリとフレンと私、一緒に過ごしたのに私はフレンを好きになってフレンも私を受け入れてくれた。ユーリは嫌いではないけど好きでもない。好きというより唯一自然体でいられる存在だから家族みたいなものなのかもしれない。


「なぁ」


机に頬くっつけて突っ伏してる私にかかるユーリの低い声。薄ら開いた目で見てみるも彼はこちらを向こうともせず氷を鳴らしながらウイスキーを喉に流し込んでから口を開いた。


「そんなに寂しいなら慰めてやろうか?」


カラン、グラスが置かれた事で若干溶けた氷がバランスを崩し音を鳴らした。
ユーリの発言にクエスチョンマークを浮かべる程子供でもなければ馬鹿でもない。
流し目でこちらを見るユーリに不覚にも色男とか思ってしまった。


「ハッハッ!そーんな事言っちゃうんだ?」
「割りとマジなんだけど」
「そーぉ?ならお願いしようかな〜」


あー、私何言ってんだろ。アルコールのせいか理性が働かない。
これ以上ここにいてもお酒提供してくれないみたいだし、眠くもなってきたしで別のカウンター席に座っている客を相手してるおばちゃんに勘定をお願いして払うもんを払う。




「さー、アンタの部屋に行こうかねー」
「…マジかよ…」
「なんか言ったー?」


トントン、と階段を上る。向かう先はユーリの部屋。
もういいや、ユーリで。寂しさが紛れるなら。
本当に女は拗れると何しでかすかわからない。


「ユーリ〜開けて〜」
「はいはい」


ガチャガチャと鍵閉まってるドアを開けようとする。ユーリは溜息吐きながらも鍵を開けてくれた。
ドアを開ければ相変わらず狭いワンルーム。元々宿屋の客室だし仕方ないっちゃ仕方ない。
鞄と上着をその辺に放ってベッドにダイブ。ユーリの匂いがする。


「本当にいいのかよ」
「いいよ〜。てかユーリが言ったんじゃない」
「そうだけどよ」
「本当にいいの。ユーリは多分気持ち良くしてくれるから。慰めてくれるんでしょ?早く、やろ」


嗚呼もう本当にどうだって良くなってきた。さっきまで後ろめたさがほんの少しあったのに今では期待でしかない。
だって下町育ちにしてはやけに色男に成長したフェロモン野郎だし、モテるし、慣れてそう。
フレンなんて全然免疫無かったから今思えば最初可愛かったなぁ。今となってはなんかSっ気発揮させてるから少し厄介だけど。でもそんなフレンとももう長い事ご無沙汰、それどころか最後にちゃんと会話したのいつだったか思い出せないくらい前。
でもユーリとはほぼ毎日会えている。下町に住んでいるから。フレンはお城に住み込みだからこっちからは会いに行けないし、公務中の姿を遠巻きに見ているだけ。
どうしてユーリじゃないんだろう。ユーリだって落ち度がないどころか皆が羨むような優良物件で彼だって私をそこまで蔑ろにしない。フレンよりSっ気ありそうだけど基本面倒見が良くて言う事ある程度聞いてくれそう。ユーリこそ女の扱い慣れてるだろうから少しくらい察してくれる部分あるんじゃないかな。なかったとしてもユーリ相手なら素直に言える気がする。
なのに私は……。












「―ルナ。ルナ、起きて、朝だよ」


ん…頭痛い…。そんなに揺らさないでよ…。それにまだ眠いよぉ…。


「ルナ、ルナ」
「んん〜…フレンうるさ……」


……フレン?


「起きた?ルナ。朝ご飯出来てるよ、食べよう」
「………」
「どうかした?」


睡魔に負けそうになりながらも必死に目を開いて声の主を映す。
やっぱりフレンだ。さっきから聞こえてた声もフレン。私が聞き間違える筈ない。
…遂に幻覚や幻聴まで…。


「寝たら治る…」
「えっ、ちょっと、ルナ」


遂に脳がダメになったかもしれない。元より出来は良くなかったけど。
多忙なフレンが寝てる私を起こす筈ないじゃない。あぁそれとも夢なのか?夢の中で寝るのって不思議な感覚だぁ。
それに段々思い出してきたけど昨日はユーリの部屋に泊まった筈。お城暮らしの彼のところに行った訳でもないし、ましてや彼が下町のユーリの部屋に来る事もない。そういえばそのユーリは何処行ったって話だ。
それにしても昨日は飲み過ぎたのか…頭痛いや。痛みを感じるって事は夢じゃないのかな。するとやっぱり幻覚や幻聴…。


「…参ったな。折角のご飯が冷めてしまう…」


幻聴がご飯の心配なんかしてる。そういえばなんかいい匂いがするな、お腹空いてきた。
本当にフレンがここにいるみたいだ…。そんな訳無いのに。
だから私はユーリと…。


「…ルナ。君がここにいる事について咎めるつもりないよ?僕があまり君を構ってやれなかったからなんだろう?ユーリから聞いたよ。寂しがってるって。ごめんね、気付いてやれなくて…。言い訳になるけどルナはいつもにこにこ笑ってくれるし文句言われてもないから問題無いって思い込んでて…」
「………」
「ルナ…?ルナはやっぱり…、ユーリの方がいいかい…?」
「…いい訳…ない……」


都合の良い言葉が幻聴として聞こえてくる。幻聴でも嬉しいもんなんだね、フレンが私に向ける声色聞いたのいつぶりだろう。フレンの声が聞こえてもいつも公務中の凛々しい声だったから、こんな柔らかい声ほんと久し振り…。
…いいや。フレン、ここにいる訳ないし溜まってるもの吐き出してしまおう。


「フレンに会えないの…辛い…。いっつも遠巻きでしか見れない…。少しでも、ほんの少しでもいいから構って欲しい…。放ったらかさないで…。ユーリは毎日会えるけどフレンは会えない。なんでフレンなんだろう、なんでユーリじゃないんだろうって思った。ユーリなら寂しい思いする事ないってわかってるのにユーリじゃ駄目なの。…フレンじゃないと駄目なの…」
「それが…君の本音?」


幻聴に対し頷いた。幻聴なのに会話出来てるなんて不思議だね、本当にすぐ傍にフレンがいるみたい。
いるの知っててこんな馬鹿な事言う訳ないけどいないんだしどうせ…。


「う〜…頭痛い…」
「大丈夫?お水あるよ、飲む?」
「うん…」


ゆっくり体を起こして背中を何かで支えられてるのをぼんやり感じながら口元に当たったコップを自ら掴んで上に傾ける。ややぬるい常温の水が身に染みて安らぐ。
水のおかげで段々意識がはっきり……


「………」
「どう?落ち着いた?」
「…え?」
「ん?」
「フレンが…いる」
「さっきからいるよ」


え、だってここユーリの部屋じゃ…。周りを見渡してもやっぱりユーリの部屋だ。
余程アホな事を言ったのか、フレンがやや困った顔で微笑んでいる。やだ、その顔もカッコいいなんて思ってる余裕なんて無い。


「ユーリがフレンになった…?」
「ぞっとしない冗談はよしてくれ」
「だってユーリ…ユーリは?ユーリの部屋だよ、ここ。ねぇユーリ、」
「…流石の僕もあまり君の口からユーリユーリと聞くのは気分が良くないな」


はっとなり思わず口を手で押さえる。


「さっきも言ったけど、ユーリからルナの様子を聞いて慌てて来たんだ。因みにそのユーリなら今頃僕のベッドで寝てるんじゃないかな。かなり疲弊しきってたみたいだし」
「私の様子…?」
「言ったろう、ルナが寂しがってるって。その所為で酒に煽られてユーリと一線越しそうになったと聞かされた時には気が気でなかったよ。思わずユーリ相手に剣を抜いたなぁ、ははは」


笑って誤魔化してるけどさらっと怖い事言ったよねこの人。
そうだった、そんな事になろうとしてたんだ。あれ、してた?したんじゃないのか?…よく思い出せない。


「ユーリもそこまで馬鹿じゃないよ。ルナに手を出したらどんな報復が待ってるなんて考えただけでもぞっとするだろう?」
「さっきからさらっととんでもない発言かましてる貴方が非常に怖いです」
「やだなぁ、ルナにする訳ないじゃないか」


あれ?フレンってこんなに怖かったっけ?凄く爽やかな笑顔なのに、これ以上ないくらい。
久々の逢瀬なのに何処か喜びが足りない私がいるのは気の所為ではない筈。


「それはそうと…フレン、貴方仕事は?」
「そんな事気にしなくていいよ。ルナさえ満足してくれるなら」
「…つまりサボり?」
「はは、そうなるかな」


あのフレンがサボり?真面目が服着て歩いてるような人が?騎士団長になって余計重責負わされて身体に鞭打って働いてたじゃない。
私さえ…ユーリにあんな事言わなければ…。


「あの…、ユーリがなんて言ったか知らないけど私の事なんか気にしないで…。お酒入っててあらぬ事も言っただろうし、そこまで深刻じゃない…」
「君が酒に煽られてユーリに愚痴零してる時点で充分深刻だと思うんだけどな」
「………」


フレンの目がいつになく真剣だ。ひたすら真っ直ぐ私を見据えている。
…あぁそうか、思い出した。フレンを好きになった理由。ユーリは移り気だけどフレンは真っ直ぐなんだ。そのひた向きさに惚れたんだ。
こんなフレンだからフレンじゃないといけないんだ。


「…フレン」
「うん?」
「フレン」
「うん」
「フレン…フレンっ…」


言葉に出来ない程色々思うところがあってただただ彼の名を呼びながら泣いた。
フレンと呼んで応えてくれる彼に涙が止まらない。


「フレンが仕事で忙しいなんてわかってるし、仕事を無責任に放り出す訳無いってのもわかってるの。でもどうしても会って会話したり触れ合ったりしたかった。そんな事フレンに言って迷惑かけたくなくて…っ。我儘言って嫌な気持ちにさせたくなくていつも笑ってるだけで本当は、本当はっ…!」
「うん、うん、わかったよ。僕だって本当はルナの傍にいたいよ」


わんわん泣き叫ぶ私の頭を優しく撫でてくれる。…遠い昔にも同じようにしてくれた。ユーリは呆れて見るだけなのにフレンはいつも撫でてくれたり優しい言葉をかけてくれてた。


「今日はずっと傍にいるよ。ルナの我儘だって聞いてあげる。今まで放ったらかしてた詫びをさせてくれ」
「…じゃあこの後出掛けよっ。街言ってショッピングしてカフェで軽食やケーキ食べるの!フレンの奢りだよ」
「そんな事でいいのかい?」
「え?えーっとじゃあ…お洋服もフレンが選ぶの!どんなのがいいのかとか…勿論着れる範囲でだよ?私もフレンのお洋服選びたい!昼間はそうして、夕方になる頃には食材屋さんで材料選んで一緒にお料理してそれから…」
「それから?」
「…ひ、久し振りにその……やりたい…な…」
「アハハハ。まさかルナからそんな誘い受けるなんてね。今からでもいいんだよ?」
「今からしちゃったらショッピングとか出来ないじゃない…」
「…君は本当に男を煽るのが上手だね」
「何?」
「なんでもないよ。じゃあ出掛ける前に朝ご飯食べようか。温め直すよ」
「…その朝ご飯、アレンジしてないよね?」
「ん?しても良かったんだけどルナがいつも怒るから」
「しなくていいの!!」


フレンのこういうところさえ無ければなぁ…。温め直すついでに余計な事されたら堪ったもんじゃないので見張る。
今日はフレンと一緒にいれる、そう思ったらつい顔がにやけちゃう。


「これからは気を付けるよ。…あぁ、今夜は暫く僕の事を忘れられないように刻み付けるつもりだから覚悟しといて?」
「…わかった、貴方は爽やかな笑顔になる程怖いのね」






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