39.伝える




文武両道、眉目秀麗。
その両方の言葉が当て嵌まる人なんていないと思っていたんです。だけど、このお屋敷の主人の息子さんはまさにその両方の言葉が当て嵌まるお人でした。
年若くして王国客員剣士を務め、その腕の実力は素人目でもわかるくらい確かな物。容姿は艶々でさらさらな黒髪に綺麗な顔立ちで女子も羨むようなスタイル。難癖を上げるとしたら人付き合いがあまりよろしくなくて無愛想なところでしょうか。年相応の素直さもありません。
しかし、そんなの霞んでしまうくらい他の要素が秀でてらっしゃっているので女性達は放ってはおかないでしょう。よく恋文やプレゼントを貰っています。




「ルナ」


名を呼ばれ近付いて来た彼に何でしょうか、と問いかけます。
立ち止まった彼は持っていた可愛らしい小包を私に向かって投げ渡されました。


「やる」
「いりません。リオン様が頂いた物でしょう?」
「じゃあ処分しておけ」
「もっと出来ません。お返し致します」


ずい、と渡された小包を突き付けましたが、リオン様は受け取ってくれません。
何回目でしょうか。こんな風にリオン様が何処ぞの女性から頂いたプレゼントやら恋文を押し付けられたのは。
そしていつからでしょうか。私がその頂いた物達の処分係となったのは。


「何処の誰かもわからない奴から貰った物等、嬉しくもなんともない」
「それは確かに一理ありますけど、だからって何故私に託すんですか」


いつも通りの言葉に恐れ多くも反論し、その度に疑問をぶつけてみますが答えが返って来た事なんてありません。適当にはぐらかされて立ち去ってしまうのです。
だからいつも私は押し付けられた物を渋々処分します。だって私が持っていても仕方ありませんし、誰かにあげる訳にもいきませんから。中には食べ物だってあるので置いといたら腐ってしまいます。
特に恋文を処分する時は凄く胸が締め付けられて罪悪感が半端なく押し寄せてきます。
差し出した人はリオン様の事を想って、その想いを綴ったのにも関わらず封を切られる事なくただのメイドの手によって処分されている事なんて夢にも想って無いでしょう。
それに…。


「私がなんとも思わないとでも思っているのでしょうか」


処分を依頼される度にリオン様がまた女性から頂いた物なんだと思うと胸が苦しくなります。
そう、私はメイドの身でありながらリオン様の事をお慕いしております。
一介のメイドが主人の息子に恋心を抱くなんて言語道断。身の程知らずにも程がありますし、烏滸がましい。
しかし、抱いてしまった恋心を自覚してしまった以上、抑えられません。本人には勿論、他人にも知られないように取り繕うのが精一杯なのです。
だからこそ、あんな物達を押し付けられる度に贈る事が出来る女性に対して嫉妬しますし苛立ちますし羨ましくも思います。
私だって想いを伝えたいです…。








「ルナ」


それから数日が経ち、最近は処分の依頼が無いと思ってた矢先に呼び止められました。
今度はなんでしょうか。恋文?プレゼント?


「…手を出せ」
「え…、手…ですか?」


今までは名前を呼ばれたら次には何かを投げてきたり、又それ以外だったら何かの用事を頼まれたりされてきましたので、こんな風に何かを欲求されたのは初めてで戸惑ってしまいました。
早くしろ、とやや苛ついた声で言われましたので慌てて両手を広げて彼に向けて差し出しました。これでよろしいのかわかりませんでしたので、疑問符が頭の中で埋め尽くされます。


「…やる」


広げた両手の中央に置かれたのはいつもより小さくてシンプルな小包でした。
藍色の箱に銀色のリボンが巻かれ、赤薔薇とブーゲンビリアの花が添えられています。
いつも渡される可愛らしい感じ等一切無くて、パチパチと瞬きしながら渡された小包をひたすら見つめるしか出来ません。


「あの…、これもリオン様が頂いた物ですか?」
「いや、…僕が用意した」
「はぁ。では、何故私に渡すのですか?」
「聞こえなかったのか。やると言ったんだ」
「……え、私にですか?」
「それ以外に誰がいる」
「え……えぇー…?」


リオン様は御用意した品を私に渡すと仰られました。
言葉は理解したのですが、信じられずにいます。


「…嫌なら、迷惑ならいつものように処分するがいい」
「え!?いや、そんなっ、とんでもない!」
「だったら素直に受け取れ」
「は、はい…」


置かれたままだった小包をきちんと持ち直します。
ですが、いきなりどうしたんでしょう?リオン様が一介のメイドである私に贈り物だなんて。
…あっ、そうでした!私はこのお屋敷に雇わせて頂いているメイドです!主人の身内の方からの贈り物を貰うだなんて…!


「あ、あの…やっぱりお返し致します」
「…どうしてだ」
「だってリオン様はこのお屋敷の人で…私はただの雇われメイドですから頂けません」
「そんな事、関係無い」
「関係ありますよ!だってこんなの烏滸がましい…!」
「…僕個人としてルナ、お前に渡しているんだ。主人だとかメイドだとか関係無い」


リオン様が真っ直ぐこちらを見てそう仰いました。あまりに真剣な目をなさるのでこれ以上反論出来ませんでした。
リオン様個人として…。いやでもやっぱり…。


「やはり迷惑か…?」
「い、いえ…私個人としては迷惑では…」
「だったら受け取ってくれ」
「……はい」


やはり返そうと突き付けてた腕を引っ込めて、頂いたプレゼントを大切に抱えます。
ところで、渡された時から渡された品以外にも気になっている物があるのですが…。


「ところでリオン様。このお花達なんですが…、最初から付いていたのですか?」
「いや…花屋で購入して付けた」
「そうですか。…あの、花言葉とかって御存知なのでしょうか?」
「………」


私の問いに答えてくれないリオン様はほんのりお顔を紅く染められてそっぽ向いてしまわれました。
まさかそんな反応なさるとは思いませんでしたので私の胸が高鳴ります。ドキドキと心臓が早く鳴って苦しくなって顔が熱くなっていきます。
リオン様。このお花達の花言葉を知っているからこそ、そんな反応しているんですよね?


「り、リオン様…!」


添えられてる赤薔薇を引き抜き、リオン様に向かって差し出します。
リオン様は少し驚いた様子で私を見ていました。


「頂いた物を使うのは忍び無いんですが、どうしても今伝えたくて…」
「…!」
「私からの…返事ですっ」


そういうと意味をわかってくれたんでしょう、リオン様は紅いお顔のまま微笑んで差し出した赤薔薇を受け取ってくれました。



赤薔薇の花言葉は"貴方を愛しています"。
ブーゲンビリアの花言葉は"貴方しか見えない"。
























「…綺麗、です」


さて、渡されたプレゼントの中身はと言いますと、紫色の宝石…アメジストのネックレスでした。
貧乏育ちな私から見てもとても上質な物である事がわかります。…高そうです。


「突き返されそうになった時はショックだったんだぞ、これでも」
「うぅ…、申し訳御座いませんでした…。でもリオン様は平気で処分されるじゃないですかっ。他の方から頂いたプレゼントをっ」
「ルナしか興味無いからな」
「…狡い、です。そう言われると何も言い返せないじゃないですか」


なんだか恥ずかしくなりましたので俯いてしまいます。
手に持ってるアメジストのネックレスを再び見つめます。
深い紫色の輝きはリオン様の瞳のよう…。


「大切にします…。ありがとう御座います、リオン様」


熱い顔のまま笑顔で感謝の言葉を口にすれば、リオン様も満足気に微笑んでくれました。











end.





私の中のリオンが迷子になってます。←




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