「・・・此処が、鬼を体に封じ込めた人間のいる学校ね」

「鬼の妖気に当たられたんじゃないでしょうか?妙に気配のざわついた学校ですね」

「そうだねー・・・楽しそう」

「女王・・・一応偵察という目的なんですから、楽しまないでください」

「固いこと言わないの」

「はいはい」


ここは、童守小学校。
門の前には、カーキ色の長い髪をした少女と、真っ白な猫がいる。
少女は楽しげに微笑むと、その猫を胸に抱いて歩き出した。




IF 〜もしも童守町があったら〜




「んー・・・何なんだこの違和感は・・・」

「どうしたんですか、鵺野先生?」

「あ!り、リツコ先生・・・!」


職員室で唸っているのは、この春に童守小学校で五年三組の担任になったばかりの鵺野鳴介だ。
霊能教師として有名な彼(通称:ぬ〜べ〜)は、ナイスバディで美しいと有名な五年二組担任の高橋律子先生にぞっこんだったりする。
しかし、今気になるのはこの――形容しがたい気配。妖気や霊気とは違うものの、似たような気配であることに違いはない。


「それよりも、今日は鵺野先生のクラスへ転入生がくるんじゃなかったかしら?」

「あー、そうなんですよ!妙な時期の転入生もいたものですね」

「きっと何か事情があるのよ」


そう微笑むリツコ先生に、ぬ〜べ〜はすっかりメロメロだ。
彼がだらしなくリツコ先生を見ていると、職員室のドアがノックされる。


「・・・失礼します、鵺野先生はいらっしゃいますか?」

「!?」


入ってきたのは、見たこともないような美少女だった。しかも、小学生にはあり得ない程のナイスバディ。
だけど、ぬ〜べ〜が気になったのはそこではない。
先ほどから感じている違和感が、まさに彼女の雰囲気であるからだ。


「き、君は・・・?」

「あれ?校長先生から聞いてませんか?今日からこの学校に転入した、神野美羽です」

「あ・・・そ、そうか、君が・・・」


同じように、その猫からも妙な雰囲気が漂ってくる。
害はなさそうだけれど、気を付けておいたほうがいいだろう――そう思った。


「あー・・・
取りあえず、学校に動物を持ちこむことは校則で禁止されているのだが・・・」

「それなら、校長先生に許可を頂きました。小桃は私のペットではないので」


ピラリ 見せられた紙は、確かに校長の許可証だ。
ペットでなければ家族だとでも言うのだろうか?ただでさえ濃いキャラ揃いの自分のクラスに、更に濃いキャラが加わるのだと思うと、多少頭痛のしてくるぬ〜べ〜だった。




「ここが、五年三組だ」

「ありがとうございます」


美羽と小桃の案内された五年三組は、がやがやと賑わっているのが廊下でもわかる。
からりとぬ〜べ〜がドアを開ければ、波打つように生徒は席に着いた。


「今日は転校生を紹介する」


先に入ったぬ〜べ〜がそういうと、席に着いた生徒たちは一気にざわめきを取り戻した。


「女の子かな!?」

「えー!美少年がいい!」


そんな声が聞こえてくる。
美羽は内心苦笑いをして、ぬ〜べ〜の手招きに合わせて中へ足を進めた。
瞬間、教室のざわめきがぴたりと止まる。


「今日からこのクラスでお世話になります、神野美羽です。よろしくね」


艶のあるカーキ色の長い髪。大きな瞳はアメジストのように輝いている。
大人びた雰囲気とは相反して、幼い整った顔立ち。背は低いものの、巨乳を自負する細川美樹並みに胸がデカイ。
しかも、何故かオッドアイの白猫を連れている。
あまりのインパクトに、普段から騒がしいクラスの少年少女は唖然とするしかなかった。


「・・・妙に静かだな、お前等」


訝しんだのは、勿論ぬ〜べ〜。
いつもの五年三組を知っていれば、このような反応になってしまうのは致し方のないことだ。


「だだだ、だって、ぬ〜べ〜・・・」


どもりながら声を発したのは、クラスの中心人物でもある立野広。彼の言いたいことがわかっているのか、隣の席で頷いている少女は、広と比較的仲の良い稲葉京子だ。


「・・・。・・・まぁ、取りあえず君は席に着きなさい。広・・・今喋ったやつの後ろな」

「はい、ありがとうございます、先生」


何もなかったように頷き、広の後ろの席へ腰かける美羽。
彼女の通った後には、桜花と梅花の甘い香りが残された。


「な、なぁぬ〜べ〜!折角転入生が来たんだからさ、一時間目は自習にしようぜ!」

「そうそう!美羽ちゃんに色々聞きたいし!」

「・・・お前等・・・まぁ、しかたない」


言いだしたら聞かないクラスの子供たちの性格は、ぬ〜べ〜が一番よく知っている。
このまま強行しても授業にならないと踏んだのか、ぬ〜べ〜はため息を吐きながら了承した。


「ねぇねぇ!美羽ちゃんはどこから来たの?」

「東京だよ」

「へー!都会っ子なんだ!」

「そんなことない、昔は田舎に住んでたし」

「彼氏はいるの!?」

「いないよー」

「俺なんかどう!?って痛い!」

「その猫は、ペット?」

「ペットではないんだけど・・・校長先生に許可もらったから、お供みたいな感じ」

「かーわいー!名前は?」

「小桃だよ。桃の香りがするの」

「抱いてもいいかな!?」

「あー・・・この子、人見知りだから」


一斉に美羽の席へ集まり、台風のように質問をしていく生徒達。(ちなみに、自分を押して小桃に引っかかれたのは木村克也だ)
そんな生徒の様子を見て、ぬ〜べ〜は更にため息を吐いた。


「お前等・・・仲良くするのはいいことだが、自己紹介くらいちゃんとしろ」

「「「あ」」」


ぬ〜べ〜の言葉に、自分の名前すら言っていなかった面々は、慌てて自己紹介を始めた。


「俺は立野広!サッカーなら俺に任しとけ!」

「私は稲葉京子。騒がしいクラスだけど、よろしくね」

「お、お、お俺は木村克也!君、可愛いってよく言われるでしょ!」

「私は細川美樹よ。このクラスのアイドルの座は渡さないんだから!」


次々と自己紹介をしていく生徒達。美羽はただ、微笑みながら頷いている。
最後に栗田まことが自己紹介を終えると、美羽はまたしても質問攻めにあうのだった。




転校初日
「ここも騒がしい所ですね」
「楽しくっていいじゃない」




2010.12.17



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