ふんわり・くるり(沢田綱吉)
「ツナ君、早く行こ」
「あ、うん…!」
目の前でにっこり笑っているのは名前。 生まれて初めて、できた彼女。
落ち着いていて、大人っぽくて、はっきり言うとダメツナの俺には不釣り合いだ。
「京子に教えてもらったの、このケーキ屋さんすっごいおいしいんだって」
「へ、へぇ、そうなんだ!じゃあ早速入ろっか…」
「うん」
「あ、お、俺がおごるから…ん!?」
と言ってハッと気づく。あれ?お小遣い残ってたっけ?
財布を見るとぎりぎり自分の分が払える程度しか残っていない。
あちゃー、という顔をする俺に、それでも名前は微笑んで、
「大丈夫だよツナ君、私もお金持ってきたから」
と言ってみせる。
ああ、かわいいけど…かわいいけど情けないな、俺って…。
ホント、なんで付き合ってくれてるのか不思議なくらい…。
でも…。
「ツナ君は何にするの?」
「あ、えーと、じゃあ…。ロールケーキかな…」
この笑顔は紛れもなく俺に向けられてるから。
「そっか。私はショートケーキにしようかな」
少なくともその間くらいは、そんな消極的な考えは捨てて楽しもう…。
それくらい、許されると…思うんだけど…。
「ん、おいしそう」
頼んたケーキがテーブルに運ばれてきて、名前と俺はフォークを手に取った。
名前が俺のロールケーキを見ながら、またニコッと笑った。
「ロールケーキってツナ君みたいだよね」
「へ!?な、なんで!?どこが…??」
意外な言葉に、びっくりして、ちょこんと苺が乗っていて、
クリームと粉砂糖で飾られたロールケーキに目を移す。
フルーツとクリームがくるんと巻かれた、ふわふわのロールケーキ。
「うーん、ふんわりしてて、いろんなものを、ちゃーんと包み込んでる…みたいなところかな…」
「ええーーっ、そ、そうなのかな…」
「うん。ツナ君は優しいし、大事な人を温かく包んでくれる、…よ?」
「!!」
「その、そういうところが…」
名前がちょっとうつむく。
「好き、だな…」
赤く染まった頬が髪の間から覗いた。
「…っす…!?」
付き合ってはいるけれど、改めて言われると照れるに決まってる…!!
頬が熱くなるのがわかる。
黙り込んだ俺たちを、紅茶の湯気がふわっと
包み込んだ。
「おおおお、俺も、名前のこと…あの、す……好き…」
「…ツナく…」
「っだから、えっと!!これからも、一緒にいてほしいな、なーんて…」
店の中のケーキの甘い香りに酔ったに違いない。
また自分らしくないこと言っちゃったよ!!
恥ずかしすぎてどうしていいかわからなかったから、へへへ、と笑って俺もうつむく。
「ツナ君…。ありがとう、嬉しい」
恥ずかしさは忘れて、俺はすぐに顔をあげた。
ありがとう。
そう言ってくれたくれた彼女の笑顔に期待して――
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