意識(六道骸)
「名前…」

「なに、骸…」


僕は彼女を抱きしめた。


少し考えれば無理なことだろうと分かる。


「どうしたの…」


どうしたら君に釣り合うようなきれいな人間になれるのだろう。


ちょっと前ならこんなむちゃくちゃなことなど考えなかった。



「どうして、こうもしょうのないことにとらわれてしまうのでしょうね…」


君がほしいんです。

そう名前の耳元で囁くと、彼女はかあっと顔を赤らめる。


その赤みがかった頬に、僕は自覚する。


(しょうのないことではないはずなのに…。)



「…僕は…不安で仕方ありません…」

「ねぇ。今日の骸、少し変だよ…」



心配そうにのぞきこんでくる名前が愛おしい。

このとおり、少しふさぎ込めば君は僕のもとへ来てくれる。


それは紛れもなく惹かれあっているからに決まっている。でも。


「骸…。大丈夫だよ、私がいるもの…」

そっと僕の頬に添えられた君の手が温かくて、それだけで僕は満たされる。

でも。

心の底で君は、僕の気持ちを「嘘」だと思っているでしょう。


何かに利用される。それでもいいから僕を愛する。


君のその強い覚悟は、
こんなにも僕を愛してくれていることへの何よりの証だというのに、何がこんなに悲しい。

「愛しています、名前。ずっと一緒にいてほしいんです」

「うん、わかってるよ、骸」


「何よりも君が大事です」


「…うん…。知ってる…」


大事です。僕がそう言うと、うん、とうなずきながらも彼女は目を伏せる。


違います。違うんです…。


一人の人間として君を守る。そう言っている。

僕にとって君は駒ではないのに…。



君を愛している。


今まで誰にも向けたことのなかった感情を、君にだけ向けているんです。

君がほしい。



大きな瞳。長い睫。艶やかな髪の毛。華奢な肩。白い肌。

全て手に入れたい。

余すとこなく、僕のものにしてしまえれば…。



これが僕の欲望。

これが。




「君が愛した、僕。 」