気になるじゃない。後編(コラソン)
結局、意識はそのまま、完全にはなくならないくらいの状態を保っていた。
目も開けられないし、身体も動かない、喋れないけれど、何となく頭は動いたままの、もどかしい状況で。
「…」
今私は、コラソンにお姫様抱っこをされて運ばれている。
心拍数があがるシチュエーションだ。
「…」
ああ、ドキドキする。
「…」
だって。
(怖い怖い怖い怖い怖い…怖い怖い…)
やばい。
落ちたり燃えたり潰れたりする絶対。
ロマンチックな憧れとかじゃなくて。普通に危機的状況であるせいでドキドキする。
先ほど実際に、私は一瞬無重力状態を経験することとなった。
ふわっと体が浮いて、おなかがひゅうっとなった瞬間、あ、この人今転んだんだな、と理解した。もちろん私は理解するだけでどうすることもできなかった。
幸い、コラソンが仰向けにこけてくれたおかげで、私がコラソンにのしかかる体勢になったので、何とか無事だったけれど。
――次は無理、怖い。死ぬ。
冷や汗とドキドキが止まらないまましばらく進んで、ようやくコラソンが立ち止った。
部屋に入ると、匂いから医務室だと分かった。とても静かだ。どうやら医務官は席をはずしていて、誰もいないらしい。
コラソンがそっと私をベッドに寝かせてくれた。
大きな体に見合わない、繊細で紳士的な動作なのだろうけれど、私の頭を占める思考はただ一つだった。
……生きてここまで来れてよかった…。
頭の血を拭って、一通りの処置をしてもらったあと、場の雰囲気が少し変わったのを感じて不思議に思った。なんというか、静かな医務室が、一層静かになったような。
「……コラ、ソン…?」
落ち着いてきた意識の、揺れの波の合間をぬって、ようやく彼を呼ぶ。
すると、上から降ってきた何かに、目を覆われた。
きっと、コラソンの大きな掌だ。私の肩に触れて、私を抱き上げて、私を手当てしてくれた、掌。
「…おやすみ、マリー」
ああ。
あるはずのない返事が聞こえたから、やっぱり私まだ、意識が混濁しているんだわ。
だって、コラソンは口がきけないんだもの。
「…ありが、とう…」
あまりに優しい響きだったから、夢だと分かりつつも、砕けた口調でお礼を言ってしまった。
コラソンと関わったから、ドジが移ったのね。
いつも怖いのに、喋らないから物静か。
とても強いのに、おっちょこちょいでドジをしてはみんなに笑われている。
身体は大きいのに、なんだか可愛くて憎めない人。
(可愛い?)
私、何言ってるんだろう。とにかくやめだ、あの人と関わるのは。
いろんな意味で、自分の命が最優先なんだから。
そんな決心も、次に目を開けたとき、枕元に置いてあった「次の休み空いてるか」と書かれた紙に、はらはらと崩れていくんだけれど。