×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
狼紳士(荒北)
私をいったいなんだと思ってるんだ、うちのクラスの担任は。

クラス全員分―未提出者がいないせいで、きっちりあるべき重さになってしまっている―ノートの山を、両腕に抱えて引き戸を蹴飛ばす。

大きな音がしてドアが開くけれど、いつもはこんな行儀の悪いことしないもん!
口をへの字に曲げて、階段へ向かう。


昔、ケーキ作りのレシピに「力がいる作業は彼にやってもらいましょう」なんて書いていたのを思い出した。


ノート持ってくれる彼がいなくて悪かったわね、なんて思いながら歩いていると、ドン、と誰かにぶつかった。

『あ、ごめんなさい!』
「オレは大丈夫だ。…すまない、ケガはないか?」
『あ、大丈夫…』


何だ、同じクラスの福富くんか。いや、何だ、じゃないけど…。


「気ぃつけろヨ…って、ん?なんだ、椎名チャンじゃなァイ」
『ど、どうも…』


福富くんの隣にいた荒北くんも声をかけてくる。
うん、ガラが悪いけど怖い人じゃないのは知ってる。私なんかに声かけてくれたし。(”フクちゃん”のこと心配してるだけか)

そう思って会釈を返すと、意外な一言。

「何そのノート?担任?」
『えっ?』
「担任に頼まれたのか聞いてんのォ」
『えーっと、うん、集めて下まで持って来いって』

びっくりしながら答えると、ふーん、と目を細めて、私の腕からノートを全部取り上げた。

「フクちゃん、先帰っといて」
「あぁ、そうさせてもらおう」
『え、え、えーっと、え!?』

仕事のなくなった両手が、行き場なく宙をさまよう。
あれ、どうしよう。

「で?職員室?」
『うん、…って、大丈夫だよ、私、持って行けるよ!』

「バァカ、いーんだヨ。だいたいこーゆーの女子にやらせるとかありえねーっつーの、行くぞ」
『うぇ…!?』


コンパスの大きい荒北くんの背中を追いかける。

途中すれ違ったアイドル、東堂くんが、

「何だ荒北、女子人気狙いか!?」

と声をかけてきたときは、器用にも抱えたノートで殴ろうとしていた(とめた)。


「うっせ東堂!こんなん常識ダロボケナスがァ!」

「ほう、なかなかやるではないか…!」


常識かぁ。東堂くんと別れた後、悪い、と言って再び歩き出す。
なんだか、いつもより廊下が長いような、短いような。

『あの、ごめんね…?全部持ってもらっちゃって…』
「別にィ」
『ありがとう』
「礼とかいーからァ…」

そっぽを向いた、頭を見上げる。ちょっと照れてる?

言うことがなくなって、もう一度ごめんね、と言う。
荒北くんが、チラ、とこっちを見て、小さく呟いた。

「…今度頼まれたときは、また言えヨ」
『へっ…』



(あー、やばい。荒北くん紳士だ…!女の子に優しい!)
(あー、やべー。やっと椎名と絡めた…。超嬉しーわ…)