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ありがとうございます。
御礼文は新開。
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▼なーんてね。


や ば い 。

ちょっとお手洗いに…なんて言って。
まあ、髪の毛直して、リップ塗って。
ケータイで友達からの『デート楽しんでる?報告待ってまーす♪』的なメッセージをチェックして。


―恐る恐る。
―財布を、見る。

1,2,3、…。

「た、足り…る……ギリギリ…?」

高校生の財布だ。
いつも、爽やかな水色のお札入ってない。
主力は、野口英世大先生である。


「…」

まあ、最悪不足分は、立て替えてもらおう。

とりあえず席に戻らなくちゃ。彼が待ってる。
私のクラスメート。
私の好きな人。
新開隼人が、待っている。



「ごめんお待たせ…」
「構わねぇさ。あっ」
「ハイッ!!?」

私は、「あのこと」を切り出されるのではないかと思ってドキっとするが、違った。


「それ、色可愛いな」

彼は、ぽてっとした自分の唇に指を、色づいた私の唇に視線をやって、そう言った。

「あ、え?あーっ、…あぁ」
「ああってなんだよ」
「ああ、ありがとう…?」

…照れる。

ずっとクラスが一緒で、今は席も近い。
普段から、仲は良いほうだ。
でも、こうやって、色つきリップを褒められるのも、二人きりで遊ぶのもはじめてなのだ。

…二人きりで遊ぶといっても、ファミレスでご飯だけど。
新開との約束が、今も頭をぐるぐる回る。



<へー、そっか来週レースかぁ!!応援?ごめんごめん、その日予定あるから、また今度>

<そうよ、頑張って。あっじゃあ応援行けない代わりに、優勝したらご飯奢ったげる。

え?うん。…イヤ、ファミレスで勘弁してください…無茶な…>

<わかったよ、連絡してね。私はだいたい空いてるはずだから…
うっ、レースの日はごめんってば…>

<ちょっと、新開の捕らぬ狸の皮算用怖い。
ファミレスのメニュー、そんなお経みたいな感じだっけ>




<もしもし…わー、今日はお疲れさま。新開どうだったの?
…うん。まじか、おめでとう!!おめでとう。
え、すごいね、すごい!!おめでとう!!>

<…まじか!!>

<そうでした、いや忘れてません行きます奢ります。…ハイ大丈夫です。
ロイフォはちょっと…デニィズ?またまた、ご冗談を。サイゼ…え?
あ、はい、地元の…それでいきましょう…はい、じゃあ明後日ね……>



頭を回るのは、教室での何気ない会話と、一昨日掛かってきた電話の内容だ。

新開と話していて浮かれていたというのは実際あるにしても、
さすがに安易な約束にも程がある。


調子に乗った。

私も、彼も。


目の前に積まれた皿、皿、皿―。
実は鉄板数枚が、すでに店員の伝家の宝刀、「お済みのものお下げいたします」によってその姿を消している。


そして私がお手洗いから戻ったのは、ちょうど最後の…3つめのパフェグラスがきれいに空いた頃だった。

「ごちそうさま。…そろそろ、行くか?」
「…おうよ」
「おうよ?」

私が自分の分のデザートを食べ終えてしばらくしてから、
新開がそう声をかけてきたので、意を決して立ち上がる。

決死の覚悟。


「すいませーん、ごちそうさまです」

レジカウンター前でそう声をかけて、伝票をキャッシュトレーに叩きつけた。
かかってこい会計!
英世だって立派な兵士だ。ファミレスぐらいのフィールドでなら存分に戦力になるわ!

「お会計7950円です」
「まじか」

オワタ。

「じゃあこれでお願いします」
「まじか」

なんだと。

「あ、待ってください。小銭、150円ないか?」
「…ある…」


英世兵7名ほどを率いていた私軍は、消費税によって包囲されたものの、
あっけなく諭吉一人が君臨する新開軍に救済された。


今私が支払ったのは、結局150円だけ。
150円って。投石レベルだ。投石。

って、え?
私は目を白黒させて新開とレジのお姉さんを交互に見た。


「ごちそうさまでした」
「ありがとうございました、またお待ちしております」
「あっどうも…」


「え、っと、新開……あの、お金…」
「ん?あぁ」
「あ、あぁ、って、なによ…?」
「本当に女の子に奢らせると思った?」
「へ?」
「お年玉、おろしてきたんだ」
「き、貴重な精鋭部隊を切り崩してきたの…!?」

ファミレスを出て、先に階段を下りた新開が、こちらを振り向く。
何それ…と返した声は、戸惑いのあまり小さくて、独り言のようになってしまった。


女の子扱いを、新開から受けるということと、
奢れなかったどころか奢られてしまったことへの、純粋な驚き。


「あぁ、今日は特別だ」

ウィンクを決めてくる彼の顔、あんだけ食べたとは思えなくらいけろっとしてるんだもんなあ。
高校生にとって、すごく大きいお金だと思うのだけれど…。

「……ありがとう…?」

心の底から嬉しくて、照れた顔を隠しながらお礼を言うと、彼は立ち止った。
私と彼の肩が、階段の麓で、並んで止まる。

でも、特別って、どういう意味なんだろう。
私は、わずかな期待を胸に、新開を見上げた。

「優勝したら奢り、って」
「うん?」
「おめぇさんをデートに誘う、いい口実もらったなと」
「デ、デート、ですか」

思ってたんだけど、と。
バキューンと、お得意のポーズを決める彼が眩しい。

デート。

本当に、デートなの?私が勝手に舞い上がってるだけじゃ、なくて?

「この後、予定ある?」と聞かれたので、ブンブンと首を振ると、
「じゃあ、デートの続きでもするかい?」なんて聞いてきた。

「する!デート、したい…です…」

信じられないまま、返事をすると、新開は笑って、私の手を引いてくれたのだった―。








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