いろんな形をしたきみの欠片
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『………あ』
ある広告を見つけて、思わず立ち止まる。そこにいたのは、びしっとポーズを決めている、見知った彼。こう見ると、改めて彼がアイドルだということを感じる。けれどわたしは、かっこいい広告の彼よりも、いつもわたしに見せてくれるありのままの彼の方がやっぱり好きだ。
『………ん?』
タイミングを図ったかのように、バイブ音が鳴った。ディスプレイには、彼の名前。
『もしもし』
「もしもし。なまえ、今何してんだ?」
『ん、外歩いてた。翔は?』
「俺は今休憩中。今日さ、早めに帰れそうなんだ。だからお前ん家、寄ってく」
『わかった。どうせだから、ご飯も一緒に食べよっか。なんか作っとくよ』
「え、ご飯?」
『うん。どうせ今日は学校終わったら何もなかったし』
「……あー、あの、さ」
『ん?』
「その……お前の手料理すっげー食べたいんだけど、今日は行きたい店があるんだ。そこでもいいか?」
『あ、そうなんだ。わかった、そうしよう』
「………ほんと、ごめん。今度また、作ってくれるか?」
『うん。……もしかして、お店予約してくれてたの?』
「…………」
『え、どうしたの?』
「………あああもう!本当はサプライズにして驚かそうと思ってたのに……!!」
『え』
「……前にレンに、いい店教えてもらったんだ。だから、いつかお前と行こうと思ってて…」
『そうだったんだ、嬉しいな。……ごめんね』
「や、なまえは悪くねーよ。………確か前にも同じようなことあったな……」
『そうだっけ?』
「うまくいかねぇな……もっとレンみたいにびしっと決めてぇんだけど…」
『……ふふ』
「ん? どうしたんだ?」
『……ううん、かわいいなぁって』
「………かわいいって、お前なぁ……どこがだよ…」
『んー。かっこ悪いところ、かなぁ』
「…………なっ、お前…」
『好き』
「……え?」
『そういうところも、翔の一部だから』
「…………」
『……翔?』
「………もう一回、言って」
『……えっ』
「…………」
『…………好きだよ、翔』
「………へへ。サンキュ」
『うん』
「あー、会いてぇな。くっそ…」
『早く仕事、終わらせてきてね』
「おう、任せろ!」
『じゃあ、そろそろ切るね。電車乗るから』
「ああ。……なまえ」
『ん?』
「……愛してっから」
『……っ!?』
「さっきのお返し。じゃああとでな。会ったら、覚悟しとけよ」
『え……えっ』
「っはは、お前動揺しすぎ。電車乗るんだろ、切るぞ」
その優しい声を最後に、電話は切れた。わたしはその後も、動けないまま。
翔の方から言ってくれるのは、すごく珍しいことで。たまにくれる甘いその言葉が、いつもわたしを幸せな気分にしてくれる。
『(はやく、家に帰ろう)』
閉まりかけの電車のドアに慌てて乗り込んで、壁に寄り掛かりながら、また彼のことを考えた。電車にまで広告が貼ってある。
この完璧な笑顔も、悲しいときに見せる泣きそうな顔も、怒ったときの嫌そうな顔も、全部わたしが独り占めしているんだ、と思ったら、緩む顔を抑えきれなくなった。
これからも、もっと彼の一部を集めていこう。
そしてずっと、一番翔に近いところにいるからね。
仕事をしている彼を見つめながら、わたしはそう心の中で呟いた。
いろんな形をしたきみの欠片
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どれも、わたしの宝物。
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