冬の訪れ
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『………いてっ』
「うわっ」
わたしたちの冬は、静電気から始まる。
『……静電気』
「………冬だねぇ」
『うん』
タイミングを失って、行き場のなくなった手。それらを合わせて、息を吹き掛ける。
『はー。……あっ、息が白い』
「……ほんとだ」
隣を歩く祐希が、不意に空を見上げた。鼻を赤くして、ぼーっと宙を見つめる祐希。
つられてわたしも顔を上げた。澄んだ青空と、沈みそうな太陽の色が混ざって、まるでそのまま呑み込まれてしまいそうだ。
綺麗、と口に出かけた瞬間、左手にぬくもりを感じた。
『…………』
「あ、今度は静電気に邪魔されなかった」
『…………』
「なまえ、手繋ごうとしてたよね?」
『………ばか』
「えー、せっかく繋いであげたのに」
祐希の手の力が緩んで、わたしは思わず手に力を込めた。気が付くと、祐希が楽しそうにわたしを見下ろしている。
『…………なに』
「顔真っ赤だよ、なまえ」
『………手、離されるかと思ったんだもん』
「……俺が離すわけないでしょ」
祐希の手にも力が入る。さっきよりも固く繋がれた、わたしと祐希の手。
『………へへ…』
「…………」
『………あったかい…』
そうわたしが口にすると、祐希は手を繋いだままの右手を、自分のポケットに入れた。
「…………」
『………あったかいね、祐希』
「…………」
返事の代わりに、祐希は空いている手でマフラーを鼻のてっぺんまで引き上げた。
それでも隠しきれていない赤い耳が、マフラーと髪の隙間から覗いていた。
冬の訪れ
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