後輩は見た
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『ねー藍ちゃん』
「何?」
『明日さ、オーディションでしょ?』
「そうだけど、何?」
『社長に受けろって言われたやつでしょ?勝算とかあるの?』
「……あるに決まってるでしょ。君、ボクを馬鹿にしてんの?」
『いや、ちょっと不安になっただけだよ。原作の小説有名だから、その主人公だと倍率高いんじゃないかな、って』
「……準備はばっちりだし、原作も読み込んであるよ。落ちるわけないでしょ?」
『んー、でも藍ちゃんのイメージとはかけ離れてるしなぁ』
「あのね、役とボクのイメージは別問題だよ。一緒にしないでくれる?」
『でもビジョンがわかないんだもん……それに、藍ちゃんの演技見たことないし』
「……どれだけ心配なの、なまえ。そんな言葉、きっとボクの演技見たら言えなくなるよ?」
『へぇ、じゃあやってみせて』
「いいよ。どこ?」
『んーとね、ここ』
「……ここ、ね」
『うん。……っ!?』
「……僕から離れるな、そばにいろ」
『!!』
「……どう?これで満足した?」
『ちょっ……わ、わたしここ読んでって言ったんだけど!それ次の台詞……!』
「君、ボクに乱暴な言葉使わせたかっただけでしょ。ならここでも問題ないはずだよ」
『じゃあなんであんな……』
「より役に入り込むためだよ。原作でも、この主人公は彼女の顎を上に向かせて至近距離でこう言ったんだから」
『………っ』
「顔赤いよ。熱でもあるんじゃないの」
『っ、もう!からかうなっ!』
「ボクを嵌めようなんて十年早いよ、なまえ」
『うっ、うるさい!』
後輩は見た
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「……ところでショウ。いい加減入ってきなよ」
『えっ、翔ちゃん!?』
「あ!えっと……よ、よう」
「よう、じゃないよ。さっきからドアの前に突っ立って、何してるの?」
『そうだよ。いたなら入ってくればよかったのにー!』
「(……あの状況で入れるわけねーだろ)」
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