まだ僕らは旅の途中
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はらはらと舞い降りる、大地の欠片。
それは、わたしたちが生きるこの大地が、大いなる力によって破壊されている証。
『……なんだか、雪みたい』
「………ユキ?」
思わず口からついて出た言葉が気にかかったらしく、ユーリスが綺麗な青の瞳をこちらに向けてきた。
「何、それ」
『知らないの?』
「うん」
『……そっかぁ、ユーリスの街では雪は降らなかったんだね』
「……? ユキ、って降るものなの?」
首を少し傾けたユーリスに、軽く微笑む。
きっと彼は、温かい土地で育ってきたのだろう。
『雪はね、空から降ってくる、白くて冷たいもの』
「………」
『見た目は、この大地の欠片に似てるよ』
「……そうなんだ」
『寒い日に降ってくるの』
目を瞑れば、鮮やかによみがえってくる故郷の風景。わたしの街はいつも雪に覆われていて、銀色に光る街並みがわたしは大好きだった。
今は、大地の荒廃によって失われてしまった街。
「……そういえば、この前読んだ本にそんな記述があったかもしれない」
『へぇ、ルリ島にもそんな本あるんだね』
「そんなに珍しいもの?」
『場所によっては』
「ふぅん」
再び、口を閉ざすユーリス。どんなものか考えているのだろう、眉を寄せて口に手を当てている。
すると、ふとその顔が柔らかな笑みに変わった。
「……僕もなまえの育った街、見たかったな」
なんの躊躇いもなく、するっとユーリスの口から出たその言葉に、まるで小さな蝋燭がともるようにぽかぽかと温まったわたしの心。
そのお陰で、故郷を思って少し痛んだ胸も、和らいだ気がした。
『……すごく、綺麗だよ』
「へぇ。大地の欠片に似てるのに?」
『うん』
重さを感じさせずに、音もなく降り積もる大地の欠片。
この世の崩壊を示すそれは、終わりを告げるにはあまりにも儚く、綺麗だ。
『………これから、長い戦いが始まるよ』
風に乗って流れる欠片を、ただ目で追ったまま、わたしは小さく呟いた。
「うん。……終わったら、“雪”を見に行こう、なまえ」
さらさらと揺れる灰色の髪の隙間から、決意を秘めた瞳が見え隠れする。
雪が降りそそぐあの景色の中たたずむユーリスは、きっととても凛々しく、目を見張るほどに綺麗だろうと思った。
『うん。一緒にね』
短く返事をしたら、ユーリスはわたしを見て僅かに微笑んだ。
命を懸けて臨む戦いの中で、得られるものは何ひとつないかもしれない。
それでも目指す場所は、わたしの記憶の中の雪の日。
幸せな二人の姿を、夢見て。
まだ僕らは旅の途中
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