満天
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ある人は、彼に「君はどこにいるのか」と尋ねたけれど。
わたしは、彼が無垢で白い、降りそそぐ雪のように、その存在を静かに人の中に積もらせているだけなのではないかと思う。
確かに自分はそこにいたと、証明するために。
『……あー、雪だ』
「本当だ。だからこんなに寒いんだ」
『手袋持ってくればよかった。オズ、貸してよ』
「なんでさ」
『……けちー』
それとも、積もっているのはわたしの心の中にだけだろうか。
彼の存在がこんなにも、わたしの心を掻き乱しているというのに。
『はー。こんなに寒いと、外にも出たくないね』
「なまえはいつも部屋に籠ってるだろ」
『まぁね』
「でも、外で雪の中に飛び込んだら、きっと綺麗だろうね」
『そんなことしてたら死んじゃうよ』
「……綺麗な景色を最期に見れるんだから、いいんじゃない?」
汚れを知らない真っ白な雪は、人の温度に触れると溶けてしまう。
どうしたらそれを、守れるのだろうか。
『やめてよ、冗談でもそんなこと』
「………」
『………』
「……もし、オレが死んだらさ」
『………』
「花束はいらないから」
『……うん』
「そんなものいらないくらい、棺桶の中を思い出でいっぱいにするから」
『………オズならできるよ』
「ありがと!」
所詮、わたしに出来るのは、祈ることだけ。
叶わない祈りを、ただ願い続けて。
その行き先を、見届けたいんだ。
今は、雲に隠れて見えないけれど、星は今日も輝いているのだろう。
人々の願いを集めた、満天の星が。
満天
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kalafinaの「満天」をイメージして書きました。
Fate/Zeroに使われていたこの曲。雰囲気が大好きです。
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