雪が降りました
[ 1/1 ]
『……おは』
「あ!おはようなまえ!見て見て!雪だよ雪!」
『………音也、朝からうるさい』
「もう昼だよ、っていうかほら!雪だよ!」
『……さっき聞いた』
眠い目を擦って窓に視線を向けると、一面に広がる銀世界。
こんなに積もった雪を見るのは、久しぶりかもしれない。
『すごい積もってるねぇ……よいしょ』
「うん、珍しいよね!だから外に出よ……あれ?なんでこたつに入ってるの、なまえ」
『寒い。みかん食べたら寝る』
「えー!ちょっとー!外出ようよ!……だめ?」
『うっ』
上目遣いの音也にはかなわない。
わたしは皮を剥いたみかんをそのままにして、パジャマのままこたつから出た。
「なんだ、やっぱりなまえも本当は雪で遊びたかったんだね!」
『………んなわけないでしょ』
「え?」
『ううん、何でもない。行こ』
「……え、ちょっとなまえ、そのまま行くの?」
『うん』
着替えると寒いから、と言うと、まいっか、と音也はわたしの手を取った。
玄関にある姿見に一瞬映ったのは、パジャマの上からどてらを羽織って横に大きくなったわたしの姿。
その直後、肌を刺すような風に包まれて、身が縮んだ。
『うわ、さむっ』
「わー、綺麗!ねぇ、雪だるまつくろ!」
手袋も付けないでよく雪に触れるな、と思った瞬間、あ、と声をあげて音也がポケットから手袋を出した。
「忘れてた。はいっ」
『……え?』
「手が凍っちゃうからさ。手袋しなよ」
『え、音也のでしょ、それ』
「そうだけど。俺よりもなまえの手の方が大事だから、ね」
そう言いながらわたしの手に手袋をはめる音也は、寒さで鼻を赤らめながら、とても幸せそうに笑っていた。
その彼の手を、わたしは軽く握る。
『半分こ』
「え?」
『手袋、半分こしよう。音也が寒いのは、わたしが嫌なんだよ』
「……うん!じゃあ手袋してない手は、俺が暖めてあげるね!」
温かく大きな手がわたしの手をすっぽりと包んだ。それだけで、周りの景色が色づいて見える。
どちらからともなく視線が合って、わたしたちは微笑みあった。
相変わらず、頬に当たる風や空気は冷たいままだけど。
音也のおかげで、今日もわたしは心がぽかぽかです。
雪が降りました
-------------
「……わぁ、でっかい雪だるまできたね!」
『よし、写真撮ろう!待ってて音也、今ケータイ持って……うわぁっ!』
「危ないっ!」
べしゃ
「……あ」
『………!』
「あはは、また雪だるま作り直しだね」
『ご、ごめん音也……うわ冷たっ!ちょ!どどどどこ触ってんの!?』
「んー、雪だるま壊した罰?」
『ごごごごめんなさいっていうか冷たいから!』
「……たまには外で、っていうのもいいかもね」
『冗談じゃない!やめろ―――!!』
prev / next