リナリアの花を摘み取って

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『……最近、丸くなったね』

「どういうことだい?」





綺麗な青い瞳が、わたしを写してきらきらと輝いていた。この輝きに気付くことが出来たのは、出逢ってずいぶん経ってからだった。同じクラスとして一年過ごし、卒業してからも連絡を取り合う仲だというのに、わたしが見ていた彼はほんの一部だったのかと気づいた、あの日に。
―――こんな気持ち、気付かなければよかったのに。





『……ううん、何でもない』

「………そういう君は、最近何かあったのかい?元気がないように見えるけど」

『気のせいでしょ。さてと』





腕時計をちらっと見て、わたしは席を立った。打ち合わせまでまだ時間があるけれど、ここにいると苦しくてたまらない。





「もう行くのかい、レディ」

『………打ち合わせがあるから』

「まだ時間があるだろう」

『…………』





普段は放っておいてくれるくせに、どうして今日に限ってこんなにしつこいのか。ぱっと掴まれた腕を振り払って、動揺しているレンを下から睨む。





『……ごめん、今は一人にしてほしいの』

「……嫌だ」

『え?』

「……こんな悲しそうなレディを、放ってはおけないよ」





何があったんだい、というレンの声と共に、わたしの頭に優しく置かれた手。それだけで流れ落ちてしまいそうになる涙を、必死に堪える。けれど、手に力を込めたその瞬間に、我慢しないで、という低くて優しい声が頭上に降ってくると、わたしの涙腺はいとも簡単に緩んでしまった。





『………っ』

「……言いたくないなら、言わなくてもいいから」

『……ずるい…っ』

「………え?」





何でこんなに、ピンポイントで優しい言葉をくれるんだろう。わたしの知っているレンは、こんなことをしない。わたしの見てきたレンは、他人にこんなに優しくしたり、しない。

きっと、本当の彼に気付くことが出来たのは、
四角かった彼を丸くしたのは、彼女。





『………春歌、』

「え?」

『さっきレコーディングルームで唸ってたよ。何か差し入れ、持っていってあげて』

「……おいレディ、待っ…」

『じゃあね』





強引に笑って、わたしはレンを振り払った。勘のいいレンのことだから、きっとわたしの気持ちに気付いただろうな。でも、人付き合いの上手い彼は、わたしとの一番いい距離を保って、これから接してくれるはずだ。

それで、いい。
わたしは、これ以上も、これ以下も望まない。このまま、心を許した女友達として、レンのそばにいるだけで。
だから、お願いだから涙、止まって。心配してレンが来ちゃったら、何もかも全て水の泡だから。





『……ぅ』





泣くのは、今日だけ。淡くわたしの心に浮き出てきた恋心を、この涙と一緒に洗い流してしまおう。
そして、また元の友達に、戻るんだ。





















リナリアの花を摘み取って
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そうすればきっと戻れるはず
いつものわたしとあなたに





※リナリアの花言葉
“わたしの恋を知ってください”



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