そのままのあなたで
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※「まだ気付かないで」の続編です
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『……ですから、疲れてるからといって音也に当たらないでください!』
「別に当たってるわけではないと言っているでしょう……何度言ったらわかるんですか」
「なまえ、もういいよ。俺もう怒ってないし、ね?」
音也がよくても、わたしが許せないんだ!
事の発端は、今日の朝。
教室に着くと、珍しく元気がなさそうな音也が、大人しく机に向かっていた。
『おはよ、音也。どうかした?』
「あ、なまえ……おはよう。うん……この前のリズムレッスン、ちょっと出来悪かったじゃん? だからトキヤに相談したんだ。そしたら……」
最近一ノ瀬さんが疲れているのは知っていたが、音也もアドバイスをもらいたくてこのときは食い下がったのだそうだ。
すると、一言。
「あなたには基本的にリズム感がありません。もう少し努力しなさい」
短く言い放ち、このまま寝てしまったのだそうだ。
『確かに音也も声をかけるタイミングを考えるべきだったかもしれないけど……どう努力すればいいか聞いている人に向かってこの言い方は…』
ただでさえ、練習して臨んだリズムレッスンがうまくいかなくて沈んでいたのだ。
そのようなときに突き放した接し方をするのがよくないことくらい、一ノ瀬さんならわかるはずなのに。
この頃、一ノ瀬さんは雰囲気も少し柔らかくなって、とっつきやすくなったと思っていたので、なおさらわたしはこの出来事に納得できないでいた。
「全くあなたは、音也、音也と……」
『え? 何ですか?』
「何でもありません。確かにあのときは疲れてまわりに気を配れなかったので、音也に酷いことを言いました。反省しています。ですが……」
『……あ』
今までに見たことのない、冷たい瞳がわたしを射抜く。
「どうしてあなたにそこまで言われなくてはならないのですか………っ」
何かを言おうとして、でも口には出さずに顔をしかめてから、一ノ瀬さんはその場を立ち去ってしまった。
「あ、トキヤ……」
それから、わたしは一ノ瀬さんに会ってから初めて、彼と話さない日々を過ごすことになった。