愛の崩壊まで、あと一歩

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※音也ちょっと病んでます











『ただいまー』





待ち焦がれた声が聞こえてきて、俺は玄関へと駆けた。





「おかえり、なまえ!」

『おっ、なんかいい匂いする』

「へへー。待ちきれなくてシチュー作ってみたんだ!」

『あれ。カレーじゃなくて?』

「だって、なまえシチュー好きでしょ?」

『まぁそうだけど。音也はカレー派でしょ』

「なまえが好きなもの作りたかったんだ!」





俺がそう言うと、ありがと、と微笑んでコートを脱ぎながらなまえがリビングに入ってきた。





「今日はドラマの打ち合わせだったんでしょ?」

『うん。さっそく明日から撮影開始だよ』

「真っ直ぐ家に帰ってきてくれた?必要ない話、俺以外の男としてないよね?」

『うん』

「ほんとにほんと?」

『あはは。もー、最近毎日それ聞くよね。ほんとほんと』





そう笑うなまえ。嬉しくて抱きついたけど、嗅いだことのない匂いが鼻を刺激して、俺は思わず顔をしかめた。





「……これ、れいちゃんの匂い?」

『え?』

「なんで?」

『匂い?寿さんの?』





自分の袖を嗅ぎ始めたなまえに、俺は何故か腹が立って、思ったよりも大きい声が出た。





「れいちゃんと今日会ったの!?」

『え、あ、会ったっていうか、共演、だからね』

「なんで匂いついてるの!?近付いたりした!?」

『試しに、って一回抱き合っただけだよ。寿さんとわたし、恋人役だからさ。……そんなに叫ばなくても』

「……ごめん、取り乱しちゃった。そっか、れいちゃんが恋人役かぁ」

『でも台本見たけど、あんまり目立ったラブシーンもなかったし、大丈夫だよ』





台本見てみて、と渡されたので、パラパラと捲って目を通す。確かに、演じる上で必要な、最低限のシーンしかない。でも、俺はこれを見ても何も思わなかった。

本当に、なまえは正直で、純粋だ。だから、これを見たら安心してくれる、と思ってこれを渡したんだろうけど。

台本を閉じて、俺は精一杯の笑顔を浮かべて言った。





「うん、ありがとう。……れいちゃんが恋人役でよかった」

『そうだね!寿さん、すごく話しやすいし、雰囲気が音也に似てるんだ!』

「あ、それトキヤにも言われたことあるよ。兄弟みたいですね、って」

『ああ、確かに兄弟って言っても違和感ないかもね』





けらけら、と楽しそうに笑うなまえを見て、嬉しさと嫉妬が入り交じったドロドロの黒い塊が、心に重くのしかかった。
れいちゃんと兄弟、って言われるのは、確かに嬉しい。でも、俺以外の男のことで笑うなまえを見るのは、すごく嫌だ。

たぶん目の前の彼女は、俺がれいちゃんでよかった、って言った意味も、ちゃんと理解していないんだろうな。





『ん、音也?どうしたの?』

「あ、ああ、何でもないよ」





この気持ちが行き過ぎてしまっていることには、少し前から気付いていた。でも、気付いても気持ちは膨らんでいくばかりで、このままだといずれなまえにバレてしまうかもしれない。
バレたら、逃げられちゃうかな。そうならないように、逃げられない状況を今から作っておいた方がいいのかな。





『さてっ!じゃあせっかく音也が作ってくれたシチュー、冷めないうちに食べましょう!』

「うん!」





きっと、君は気付いても、そうやって今みたいに笑ってくれるよね。
だって、君は俺のことが大好きなんだから。























愛の崩壊まで、あと一歩
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絶対、誰にも、俺らの邪魔なんてさせない。









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