守りたい笑顔
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「……なあ、なまえ」
『………』
「どうしたんだ?」
『……何でもない』
仕事がやっと終わって、帰りに少し食べるものを持って部屋に入ると、なまえはソファの上で体育座りをしてテレビを見ていた。
一緒に食おうぜ、って声を掛けたのに、いらない、と一言しか返ってこない。一人で食べるのも寂しいと思ってなまえの顔を覗き込めば、すごく不機嫌そうな顔をしていた。
「……な、何かしたか、俺…」
『………』
なまえは黙ってテレビの録画画面を付けた。そこには、俺が先週出たバラエティ番組。
『これ、見た』
「おお」
『罰ゲームで口説き文句言ってたよね、翔ちゃん』
「………」
『……わたしもこのセリフ言われたことあるなぁと思って』
「……」
完全に拗ねている。自分でも嫉妬だと分かっているらしく、なまえは体育座りで丸まった体を更に丸くしてうつむいた。
その小さな背中に抱きつくと、わかりやすく体が跳ねて、俺に体重がかかってきた。
拗ねてても体は正直ななまえ。不器用なその姿が、とても愛しい。
「……正直、さ」
『……うん』
「お前が妬いてくれて嬉しい」
『………』
「お前、いつも笑ってるし、不安にさせたかなって思ってもいつも大丈夫って言うし」
『……心配かけたくないだけだよ』
「言わなきゃ逆に心配だっつの」
な、と頭を軽く撫でると、うん、と小さな、本当に小さい声が聞こえたけど、俺にはそれで充分だった。
「それに」
『?』
「………」
『何、翔ちゃん』
なまえが俺の方を向いた瞬間、目を真っ直ぐ見つめた。
なまえの目に俺が写っていて、とても綺麗だ。
『……っ』
「なまえ、」
『なっ、何』
「……好きだよ。ずっと隣にいてくれ」
『……!』
あのとき、罰ゲームで言ったそのままの言葉を、口にする。
同じ言葉なのに、全然違うのが自分でも分かった。なまえの前だと、こんなに気持ちが溢れるんだ。
目の前の見開いた瞳で、俺の気持ちが伝わったことがわかって、俺の頬は勝手に緩んだ。
「……わかったか?」
『………』
「……お前に言う言葉と罰ゲームで言う言葉、同じなわけないだろ」
『…うん、ほんとだね』
ごめんね、翔ちゃん。
そう言ってきゅっと腕に抱きついてきた小さな体を、俺はきつく抱き締めた。
守りたい笑顔
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これからも心配かけるかもしれないけど、俺はお前をずっと好きだから。
そう言うと、なまえは本当に幸せそうに笑ったんだ。
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