まだ気付かないで
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※「素直になるまで」の続編です
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今度は、レコーディングルームで喧嘩していました。
「だから、先生も言ってたじゃん!トキヤの歌には心がこもってないんだよ!」
「うるさいですね。そんなことを言う暇があったら、レッスンにでも当てたらどうです?」
二人の性格上、意見を言い合うときは喧嘩腰になってしまうのは最近わかったことだが。
やっぱり、わたしとしては見逃すことができない。
『二人ともー、ちょっとストップ』
唯一安心できることは、両者ともわたしの言葉には耳を傾けてくれることだろうか。
「何? なまえ」
『まず音也から。どうしたの』
「トキヤが、歌い方を合わせてくれないんだ。俺はトキヤみたいに上手くないから、細かい技術を使われても合わせられない」
「だからそれは、あなたが練習すればいい話でしょう。私が合わせる必要はありません」
『あーはいはい、一ノ瀬さん、素直に音也なら出来るから練習頑張ってって言ってくださいねー』
はい仲直り、と呆然としている二人の手を取り強引に握手させて、わたしは椅子に腰掛けた。
「……なるほど。トキヤ、そう言いたかったならそう言えばいいのに!」
満面の笑みでそう言ったあと、音也は鼻唄を歌いながら楽譜を漁り始めた。
「………私は先にブースに入っていますから、私の分の楽譜も持ってきて下さい」
一ノ瀬さんは呆れ顔で音也にそう言い残し、ブースへと入る。
ガラスを通して、ヘッドフォンをつけるわたしと目が合った。
「あなたには、何でもお見通しですね」
嬉しそうにマイク越しでそう言われた。