かじかむ手のぬくもり

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『はー』





息を吐くと、白い塊が現れて消えた。目の隅に映る自分の鼻の先端が赤い。

足元で、ビニール袋ががさがさと鳴っている。少し買いすぎたかな。
家族でしか鍋をしたことがなかったから、二人分が一体どのくらいなのかが分からなかった。でも、二人で鍋を囲んで食べるのを想像しただけで心がぽかぽかしてきて、量を考えずに買い物してしまった。
まぁいっか。余ったらまた鍋すればいいし。

部屋で待ってる彼の姿を想像したら自然と早足になった。冷たい風がぴしぴしと当たって痛い。
あーさむ。さっさと帰ろ。

風が当たらないように下を向いて一生懸命歩く。すると、何か黒いものにぶつかった。





『あ、すいませ……え』





真っ黒のコートにフードを被って、その上眼鏡をかけている。全く表情が見えない。
しかし、フードにおさまりきっていない赤い髪が目に入った。
もしかして。

その瞬間、目の前の真っ黒なコートががばっと開いて、わたしを包み込んだ。





「さ。帰ろ、なまえ」

『……音也。部屋で待っててって言ったのに』





肩を抱きながらわたしに合わせて歩く真っ黒な人物に話し掛けると、へへっとかわいらしく笑って、わたしの持っていた買い物袋をそっと取った。





「なまえが寒い中ひとりで買い物してると思うと、いてもたってもいられなくてさ。ごめん」

『……この前わたしと一緒にいるのがバレかけたから気をつけよう、って言ったのは音也でしょ』

「うん!だから今日はやりすぎなくらい変装してきたんだ!これならわからないでしょ?」

『うん、全身真っ黒すぎて逆に変質者だね。しかも黒いから余計に赤い髪見えたら目立つよ』

「あはは。でもこの恰好してたらまわりに人寄ってこなかったし、大丈夫!それに……」





荷物を取られて空いた手に、そっと暖かい手が重なる。その温度差に、いつの間にか冷えていた自分の手に驚いた。





「来てよかった。なまえだけ凍えてるなんて嫌だもんね」

『……音也あったかい』

「へへっ」





わたしが温もりを求めてぎゅっと握ると、音也も握り返してくれた。
本当に、あったかい。





『……あんまり無理しないでね。スキャンダルになって、音也がやりたいこと出来なくなるのは嫌』

「大丈夫だよ。俺だって、一応プロだからね。その辺はすごく気使ってるからさ!」

『ならいいけど。……でも』

「ん?」

『今日は来てくれてありがとう。嬉しかった』





二人ってこんなにあったかいんだね、と言ったら、はにかむように笑った音也に「当たり前だよ、なまえといるんだから」と言われた。

音也の部屋まで、あと少し。
冷たく触れる空気は変わらないのに、このまま歩いていたい、と思う。
そう思えるのは、隣にいるのが、音也だからだよね。




















かじかむ手のぬくもり
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