境界を越えて
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『あー、テストかー』
そう言って机にぐでーっと伸びてるのは、俺のパートナーで作曲家のみょうじなまえ。
「いいじゃん、なまえ頭いいんだからさ!」
『えーでも暗記好きじゃないんだよなー』
「そう言いながらいつもいい点数取るじゃんかー」
『わたしは最低限やるべきことをやってるだけだよ』
「俺もやってるんだけどな」
『音也は要領が悪いんだよ』
「……そんなはっきり…」
『頭が悪いわけではないって意味だよ』
「いい意味に解釈すればね」
俺が口を尖らせて言うと、ごめんごめん、冗談だよ、となまえが笑った。
ぶっきらぼうでストレートな彼女の言葉に最初は戸惑ったけど、素直で飾らない性格がぴったり合って、今は俺のパートナーでありよき親友でもある。
「……あ」
そんな風に話していると、教室に青いおかっぱ頭の青年が入ってきた。
「あ、マサ!」
『どうしたのー?』
「いきなりすまない。少しピアノの練習をしようと思ったのだが……打ち合わせ中だったか?」
『ううん雑談中ー』
「弾いちゃっていいよ! 久々にマサのピアノ聞きたいし」
「そうか、では失礼する」
優雅にピアノへと向かい、やがて綺麗な旋律が教室を満たした。
「綺麗だなぁ…」
『うん……ピアノ出来る男の人ってかっこいいよね』
「うん!マサは指綺麗だし、すごく様になってるよね」
『うん』
ぽつりぽつりと話していると、いきなりピアノの音が止んだ。
「あれ?マサ?」
「……お前たち、その、会話がまるぎこえなんだが…」
『あ、顔赤い。真斗くん、照れた?』
なまえがそう言うと、マサは一層顔を赤く染めて、もういい、と呟いてまた弾き始めた。
一方なまえはというと、早くも先程のことはなかったかのように、ピアノの音色に聞き入っている。
俺は、何故かその顔から目が逸らせなかった。
「あ、そうだ!そういえばさ、テスト終わった次の日、何の日だかわかる?」
寮に帰る直前、言おうとしてたものをやっと思い出して、俺はなまえに話しかけた。
『えっ……と、6月9日?………あ!那月くんの誕生日だ!』
ぱあっと花が咲いたようななまえの笑顔に、こっちまで嬉しくなる。
「当たりー!だからさ、那月の誕生日にみんなでサプライズしない!?」
『おー、楽しそう!やろやろ!でもその前に勉強会ね!』
「……はーい…」
そうだ、最大の難関が残ってるじゃん……。
肩を落とした俺を見て、大丈夫だよ、一緒にやろう!となまえが元気に声を掛けてくれた。
それだけでやる気がぐんぐんわいてきたのは、我ながら単純だと思う。
けど、なまえが一緒ならなんでも乗り越えられそうな気がした。