お菓子より甘いひとときを
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『トキヤ、おはよ……ん?』
「………」
朝。
部屋を訪ねていったら、青い顔をしたトキヤが呆然と立ち尽くしていました。
『え、何、どうしたの』
「……なまえ!聞いてください!」
がしっ。
わたしの両腕を掴んだかと思うと、彼は驚きの言葉を口にした。
「今朝体重を計ったら、0.5kgも増えていたんです!」
『……女子か!』
思わずつっこんでしまった。
「な…!酷いですね、人が真剣に悩んでいるというのに!」
『ごめんごめん。そんな顔してるから、もっと重大なことかと思ったんだよ』
「これは重大なことですよ!?……あぁ、今日は雑誌の撮影があるというのに…」
時間ギリギリまでランニングをしましょうか、とぶつぶつ呟いている彼を見て、0.5kgくらい変わらないでしょ、と思わず口に出してしまった。
トキヤの鋭い瞳が突き刺さる。くそぅ、相当小さい声だったのに。地獄耳め。
「あなたは太りにくいからそんなことが言えるんです」
『トキヤは気にしすぎだと思うよ』
「気にしないといけない仕事なんです」
全く。ああ言えばこう言う。目の前のドヤ顔にすごく腹が立つ。
少しからかってやろう。
『……わたしは、たとえトキヤが太っていても、ずっと好きだよ?』
「くっ……」
少し膝を曲げて、上目遣いで彼を見る。
この角度に弱いことは知ってるぞ、トキヤ。
『だから安心して。ほら、まだ時間あるでしょ?お菓子持ってきたから食べ』
「その手には乗りません」
短く切り捨てたかと思うと、トキヤはわたしが差し出したコンビニの袋を叩き落とした。
『あ―――!お菓子が!食べ物を粗末にするな!』
「そうやってあなたがここに来るたびにお菓子を持ってくるから太るんです!」
『だって、お菓子食べてるトキヤ、すごく嬉しそうなんだもん』
「………」
『今まで、好んでお菓子食べたことってあんまりないでしょ?』
「……まぁ、そう、ですね」
『食べたかったら食べればいいのに』
「……甘いものは好きではありませんから」
『嘘だぁ!昨日きのこの山、一箱一人で食べてたじゃん!』
あれ食べたかったのに!
トキヤを睨むと、何故かドヤ顔が返ってきた。
「あれは、なまえが食べたいと言っていたからです」
『は!?どういうこと』
「なまえの拗ねた顔が見たかったということですね」
『この変態』
「その変態を好きになったのはあなたです」
『うっ』
何も言えないでいると、トキヤが紅茶を淹れましょう、と部屋の中に入っていった。そういえば玄関で言い争ってたんだ、わたしたち。
ほんとに、トキヤといると時間を忘れてしまうから困る。
トキヤの後をついて台所に行くと、いいですよ、座っててくださいと言われてしまったので、ソファに腰を下ろした。