完璧主義者のお悩み
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『あっはははは!』
「………」
『っははは』
「………」
『ひいー!っはっはっはっは!』
「……よくもまぁそんなに馬鹿みたいに笑っていられますね」
『うるさいな……ぷっ』
「そんなにおもしろいですか、この番組は」
トキヤがつまらなさそうにテレビに目を向ける。
『大好きなんだ、この人たち』
「………」
大好き、と言った瞬間、ぴくりとトキヤの眉が動いたのを、わたしは見逃さなかった。
『妬いたー?』
「そんなわけないでしょう」
『ほんと素直じゃないねー』
「あなたに言われたくありません」
そう言いながら、トキヤはわたしの肩を自分の方に寄せた。
『言ってることとやってることが違う』
「そうですか?」
いつものトキヤの、意地悪そうな笑み。
わたしは、それに違和感を感じた。
『何か変』
「……何ですか?」
『変な顔』
「なっ…!」
『何かあった?』
「………」
『……』
「……うまく隠していたつもりですが」
『わからないわけないでしょ』
にかっと笑ってみると、トキヤは目を逸らした。心なしか頬が赤い気がする。
こういうときのトキヤの反応はとても素直だ。きっと本人はわかってないだろうけど。
「……今日、ミスをしてしまったんです」
『うん』
「皆さんに協力してもらえば出来たことなのですが、私一人でも出来ると思い、引き受けてしまったのです」
『あー』
「失敗したとき、皆さんは笑って許してくれました」
『優しいね』
「はい。でもそれが逆に辛いといいますか……申し訳ない気持ちになりました」
『うん、そうだね』
「………」
黙ったかと思うと、トキヤはわたしの肩に寄り掛かってきた。
これは結構こたえてるみたいだなぁ。
わたしはトキヤの頭を優しく撫でた。
「……私は」
『ん?』
「私は、自分が思っているよりも、ずっと弱い人間です」
『……え、今さら何言ってんの』
「え」
『トキヤは、自信たっぷりなフリしてるだけでしょ』
「……な」
『それに、超不器用だよね』
「………そ、そんなにはっきり言われると、結構辛いものですね」
動揺していることを隠すために、一生懸命澄まし顔をしようとしているトキヤ。
何をかっこつけようとしてるんだか。
『……あのさ。別に完璧じゃなくてもいいんだよ、トキヤ』
「………」
『よりいいものにしたい、って気持ちもわかるけど。無理してまでやったものが、自然に、魅力的に写るなんて、そんなことは思ってないでしょ』
「……はい」
『ひょっとしてトキヤって、学校のテストでも徹夜して勉強して寝不足のままテスト受けようとしたら範囲間違ってた、とかそんなタイプ?』
「なっ…!あなたは、よくそんな失礼なことをズバズバと……!」
『え、違うの?』
「……一度だけ、ありましたが」
『あははー、やっぱりー』
「笑わないでください」
『手抜くことをしないんでしょ』
それってすごくいいことだよね、と言うと、照れた顔をしたトキヤがぎろ、とわたしを睨んだ。
「あなたは毎日手を抜いて生きてますもんね」
『あのねぇ!ちゃんとやるときはやるよ!』
「ほう。わたしはあなたが本気になったところを見たことがありませんが」
『………』
「………」
『………と、トキヤに恋してた、頃は、本気だったもん』
あぁ、きっと今のわたしの顔は真っ赤だ。顔を上げたくない。
でも、全然トキヤは動く気がなくて、不思議に思って顔を上げたらトキヤの顔も真っ赤で、わたしは嬉しくなった。
『ははー、トキヤ顔真っ赤ー』
「っ……あなたという人はっ…!」
いきなり顔を引き寄せられたかと思えば、唇に優しく彼のそれが重なってきて。
唇、熱いなぁ、とか考えてたら、ゆっくりと離れていった。
「……すごいですね」
『え?』
「あんなに沈んでいた気分が、気付けばいつの間にか晴れていました。どうしてでしょうね」
『もちろん、愛のパワーですよ!なーんて』
「………そうですね」
冗談で言ったのに、急に耳に口をよせてそう囁かれてしまって、わたしは小さく悲鳴を上げてしまった。
「おや、ずいぶん素直な反応ですね。誘っているんですか?」
『違う!違うから!』
「ふふ、かわいらしいですね」
このままトキヤのペースにのせられてたまるか、とそっぽを向いたら、また耳元に息がかかってきて。
「ありがとう、なまえ。愛しています」
恥ずかしくて抵抗しようかと思ったけど、後ろからわたしを抱き締めたトキヤの横顔がすごく幸せそうだったから。
たまには甘えさせてあげよう、とわたしも力を抜いて、トキヤに身を任せた。
完璧主義者のお悩み
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努力して完璧に仕上げるトキヤも好きだけど、失敗して落ち込んでるトキヤも好きだって言ったら、怒るかな。
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